■社会の中の橋渡し役、活力源/実証とデータでアピールを
公金支出の是非を巡る神戸市室内管弦楽団の議論に耳を傾けていると、持続可能なオーケストラの姿とは? その存在意義とは? といった普遍的な問いが聞こえてくる。そこで浮かんだのが、国内のプロオーケストラ団体が加盟する日本オーケストラ連盟で専務理事を務める西濱秀樹さん(55)だ。かつて事務局長を担った関西フィルハーモニー管弦楽団を黒字化に導き、その実績を買われて赴いた山形交響楽団(山響)を今や国内有数の人気楽団へと押し上げた。敏腕「楽団」経営者の言葉から、問いへのヒントを探してみたい。(大盛周平)
-2015年、山響に来た時はどんな状況だったのですか。
「東日本大震災の影響もあって、企業からの依頼公演は激減していました。1972年の創立当初から続く取り組みで、全盛期には年間100回以上もあった学校公演は少子化に直面し、団員45人で演奏に行くと生徒が20人しかいないこともあって。定期演奏会の入場率は57%にとどまり、構造的な問題を抱えていました。一方で、山形はすごい街だとも思いました。その土台はやはり学校公演なんです。子どものころ、たった一回だけ生で聞いたオーケストラだったとしても、かすかに記憶に残っている。だからみんな『山響』は知っているんです。山響を聴くという文化的体験が、山形のある種の共通言語になっていた。そんな街はめったにありませんから」
-その中で改革を進めたんですね。
「だから、楽団員には対話の中で『あなたたちの一言は大きく、それは音楽家の価値です。その価値を全力で出し切れば危機は乗り越えられます』と言い続けました。学校公演については行政とも話し合って、合同演奏会にするなどの取り組みを進めました。演奏会のプログラムは、みんなが知っているベートーベンで(同じ作曲家の作品を連続して演奏する)チクルスをやり、そこに初演ものや現代音楽をふんだんに入れました。ベートーベンがあるから、聞いたことがあまりない音楽と一緒でも安心して視野を広げていくことができるでしょう。そうしたプログラミングの妙をつくっていきました」
「ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の首席フルート奏者、ワルター・アウアー氏を山響の演奏会に呼んだことがあります。演奏だけでなく、コンサートの前日、彼に高校へ指導に行ってもらったんです。その様子は地元の山形新聞にも大きく取り上げてもらいました。そうすると、学生向けの当日券が完売しました。なぜ山形の高校生がアウアーの指導を受けられたのか? それは、街に山響があるから。そうか、山響は地域に欠くことができない存在なんだ、と市民が知り、子どもたちが音楽を楽しむ街になった。そうした活動を続け、点を線や面にすることに取り組みました。定期公演の入場率はやがて90%を超えるようになり、チケットが取れない楽団へと生まれ変わっていきました」
-そうした改革に大事なことは何だと思いますか。
「極めて重要なのは、音楽家の思いを集約して前に進めるマネジメントの力です。列車に例えると、楽団の演奏家は夢を乗せた客車で、指揮者はそれを引っ張る機関車です。ただ、線路がないと進みませんよね。荒れ地を耕して線路を引き、アーティストを光り輝かせる道をつくる。そして線路が目指す先は、地域の思いと一緒でなければなりません。この線路を引くのが、マネジメントの仕事だと思っています」
「長くやっていると、演奏をめぐって楽団員からさまざまな声が上がるようになります。でも、街のニーズをくみ取ることができるのは、その街でマネジメントを担うスタッフなんです。だからイニシアチブはマネジメント側が持ちつつ、一緒にいいものをつくろうと。そのためにも指揮者らと信頼関係を築くことを心がけてきました」

-経営に苦労する楽団が多い中、文化を守ることと稼ぐこと、二極の対立で語られがちですよね。
「日本オーケストラ連盟には、国内の40の団体が加盟しています。首都圏や関西圏、中京圏に集中しているとはいえ、全国を網羅しつつ舞台芸術を恒常的に提供できるのです。人材教育や地方創生、観光や経済、そのどこに力点を置くかはそれぞれですが、オーケストラには、そうしたものにつながる活動の土台をつくる力があるのです。この土台こそが重要です。例えば、ハリウッドやブロードウェーは経済を回すことができますが、そこで活躍する俳優や技術者たちの背後には、一人一人を輩出する芸術団体という土台が幅広く存在します。だから、ハリウッドという頂点でいろんな可能性が生まれるのです」
「一方でプロの団体が、いくら一定レベルの芸術を提供するといっても、経営がなりたたなければ何もできません。山響では、集客などの経営データを外部にしっかり示すようにしています。山形銀行のやまぎん情報開発研究所に、24年の活動実績を基にした山響の経済波及効果を委託調査してもらうと、国内で17億7千万円、山形県内では7億4千万円でした。こうした実績をしっかりデータとして示していく。もちろん文化芸術の価値は入場者数や経済波及効果で測れる側面だけではありません。芸術の創造性を取り込みつつ、経営の目標を達成するという両輪が大事なんです。二極は対立しているのではなく、つながっている。切り分けるという発想自体が、もう時代遅れなのではないでしょうか」
-オーケストラへの公的支援のあり方はどう考えますか。
「オーケストラのような公益法人の使命は、社会投資となる活動をすることです。公益的な役割を担う団体として存在しているからこそ、民間の支援があり、国や自治体の支援もあるんです。世の中には苦しい日々を過ごしている方々もいらっしゃるわけですから。山響では学校公演を山形県などが支えてくれています。活動の価値を理解してもらうためのプロセスをオーケストラ側が見せ、信頼関係を構築していくことが必要です。それなしに物事が動くことはありえないと思っています」
-では、オーケストラの存在意義とは?
「日本は今、『コンテンツ=もうかるもの』を重視する方向にシフトしてきています。その中で、オーケストラは社会のちょうつがいとして、経済や観光、教育など社会のいろんな要素を橋渡しし、街に活力を与えていくことができる存在だと思っています。鉄道や通信、道路などのインフラのように、オーケストラが社会を循環させる原動力となるよう、私たちは取り組まなければなりません。そのためには、実証とデータをもとにしながらアピールする必要があると思います。今はオーケストラの存在価値や付加価値を社会に示す上で、ピンチでもあり、チャンスでもある。そんな時代だと思っています」
【にしはま・ひでき】1971年大阪府高槻市出身。2003~11年、関西フィル理事、事務局長として経営改善に尽力。15年、山響の運営団体専務理事兼事務局長に。19年から日本オーケストラ連盟専務理事。