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新設された「BE KOBE」のモニュメント。観光客らの写真スポットとして人気を集める=神戸市中央区波止場町、メリケンパーク(撮影・吉田敦史)
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新設された「BE KOBE」のモニュメント。観光客らの写真スポットとして人気を集める=神戸市中央区波止場町、メリケンパーク(撮影・吉田敦史)

 神戸港開港150年目の節目に合わせリニューアルされたメリケンパーク。新設オブジェ「BE KOBE」の前で、観光客や家族連れ、恋人たちが記念撮影に足を止める。今春、夫婦で福岡県から神戸市内に引っ越してきた女性(25)は「空と海と山を一度に目にできる、神戸らしいおしゃれなスポット」とスマートフォンの写真を眺める。

 「BE KOBE」。直訳すれば「神戸であれ」。阪神・淡路大震災から20年を迎えた2015年、市がロゴマークに制定した。「復興に尽力し、前を向いて生きている人たちが神戸を形づくっている」-そんな思いが込められている。

 神戸への愛着、誇りを表現しようとしたものだが、理念は浸透せず、スタイリッシュな都市イメージの表象として受け止められる。

 洗練された都市像を「神戸らしさ」として発信する戦略は過去も繰り返されてきた。「ファッション都市」(1973年)、「アーバンリゾート都市」(91年)、「デザイン都市」(07年)。その下敷きは、西洋の生活様式をいち早く取り入れてきた国際都市のブランドだ。

 しかし、こうした都市イメージは訪日外国人客に響かない。年間約700万人を呼び込む京都、大阪に対して神戸は約120万人。欧米人らが好んで訪れるのは北野の異人館街ではなく、新神戸駅近くにある国内唯一の大工道具専門博物館「竹中大工道具館」だ。

 神戸のブランド力の陰りを表すデータがある。

 ブランド総合研究所(東京)が、全国の千市区町村を約3万人のアンケートでランキングする「地域ブランド調査」。神戸は06年に2位に入ったものの、その後は順位を下げ、16年は9位にまで転落した。市内人口も12年に減少に転じ、15年には福岡市に抜かれた。

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 国際都市のブランドに支えられ、コンベンション(会議)の誘致数で全国の先頭を走ってきた神戸。81年以降、ポートアイランドに会議場、展示場、ホテルを近接配置し、国連防災世界会議や主要国大臣会合など数多くの大規模会議を開いてきた。だが、15年の開催数は113件(日本政府観光局調べ)と全国8位に甘んじ、最新機能と施設規模を充実させる横浜市や福岡市などに後れを取る。

 13年には「競争力の低下」を懸念し、新施設の基本構想がまとまったが、神戸市長久元喜造(63)は建設費の高騰などを踏まえて先送りを決めた。関係者は「このままでは“第一集団”から落ちてしまう」と危機感を募らせる。

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 「多様性はあたたかさ。多様性は可能性。川崎は1色ではありません」

 昨年12月、川崎市はまちを売り込むためのブランドメッセージを決定した。かつては東京に隣接する工業地帯として各地から労働者を受け入れてきた。近年、工場跡地の宅地化が進み、川崎や武蔵小杉駅前などではタワーマンションが林立する。今年4月に人口150万人を突破し、神戸市を抜く勢いだ。

 売り出すのは、かつて盛んだった重工業産業が生み出した文化。臨海部でライトアップされる工場地帯の夜景ツアーや、労働者らが好んだ大衆居酒屋が人を引きつける。戦前から移り住んだ韓国人らのコリアタウンには、手軽な値段で本場の焼き肉を味わえる韓国料理店が並ぶ。

 そのモザイク状の姿は、単一の都市イメージを発信する神戸とは真逆だ。京都府立大名誉教授の広原盛明(79)は「人々は失われた都市の多様性や個性に気付くようになり、人工的で均質な神戸の街に味気なさを感じているのでは」と分析する。

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 縮小社会の中であるべきブランド戦略とは-。

 東京や海外で都市開発に携わり、約10年前に神戸市に移住して不動産仲介会社の経営や地元野菜の直売会などを手掛ける小泉寛明(44)は「時間がかかるかもしれないが」と前置きした上で、「もっと素材づくりに力を入れるべき」と続けた。

 神戸の最大の特徴は海と山の近さ。小泉は「都心の近くに農村がある。まさに絶妙なバランス。地域食材を生かした商売や民泊など小さくても独立したビジネスが資源になる。『かっこいい』とか『おしゃれ』とかは評価されるもので、自ら言うことではない」と指摘する。

 イメージに依存するだけではなく、個々の魅力を集め、発信する。多様性のあるまちづくりへの転換が問われている。

=敬称略=

(若林幹夫)

=おわり

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