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東豊精工の業務課のリーダーを務める谷下真由美さん=豊岡市下陰
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東豊精工の業務課のリーダーを務める谷下真由美さん=豊岡市下陰

■人事評価制度、抜本見直し

 「請確認(確認してください)」。細いワイヤーを巻き上げる機械がずらりと並ぶ作業場で、陳小明さん(46)の声が響く。男女9人の部下を指導しながら、品質検査や納品先のクレーム対応などを担う課長級の「主幹」だ。

 兵庫県豊岡市に本社を置く「東豊精工」の海外拠点の一つ、中国・上海のばね製造工場。陳さんは、広東省にある同社の深圳工場で経験を積み、2003年の上海工場開設に合わせて転勤した。

 管理職への登用は、経験と実績から考えれば自然な流れ。副工場長が女性だったこともある。「不安だとか嫌だとかはなかった。責任感を持ってがんばろうと思っただけ」と話す。だが、中国の現場では当たり前の人事が、日本では違っていた。

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 東豊精工に勤める役職付きの女性の割合は、上海工場が70%、深圳工場が45・5%、豊岡の本社工場では11・8%-。

 業務そのものはほぼ同じはずの製造現場に潜む格差に、岡本慎二社長(65)は驚いた。「意識的に男を優遇しているつもりは全くなかった。だが、男が管理業務、女性はサポート業務という創業当初からの流れが続いてきてしまっていた」

 わざわざ役職者の男女割合を確認することになったきっかけは、豊岡市内の事業所でつくる「ワークイノベーション(WI)推進会議」だった。豊岡市の呼びかけで、女性をはじめ誰もが働きやすい職場づくりを目指して18年10月に設立された。岡本社長は豊岡商工会議所の会頭でもあり、WI会議のトップに就いていた。旗振り役の立場上、自社の現状を調べたが、どうしてこのようなことが起こっていたのか。WI会議で講師から聞いた「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」という言葉がふに落ちた。

 「中国が日本より進んでいるというより、学歴など(登用の)物差しが異なるのだろう」。日本の工場も中国の工場も、戦略的に男女の働き方を決めたわけではなく、自然の成り行きに任せた。その結果、大きな違いが生まれていた。

 自社のばねは、内視鏡で世界シェアトップのオリンパス(東京都)の製品などに使われている。「世界市場に挑戦していくには、最新の設備や技術も必要だが、何よりも人材」と岡本社長。働きやすい会社にならないと置いていかれる-。そんな危機感から、本社の人事評価制度などを抜本的に見直した。

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 午後5時過ぎ、業務終了時刻が近づくと、谷下真由美さん(38)の携帯電話が鳴る。東豊精工の同僚でもある夫からのいつもの連絡だ。「きょうは定時で上がれそうだから、子どもの迎えに行くよ」と夫。それを聞いた谷下さんは残務を片付けた後、間近に迫るばねの技能検定に向けて勉強をしてから工場を後にした。

 入社21年目、業務課の「リーダー」を3年前から務める。打診された時は正直「『女性活躍』の流れで、会社の体裁上選ばれたのでは」と思った。当時、第2子を出産したばかりで、部下よりも先に帰ることを想像すると不安も募った。

 ただ、昔から仕切ることが得意で、課内で業務の調整や割り振りなどをしていた。その働きを上司が評価してくれたようだった。自分の能力を認められたという実感に「ポッと火がついた」という。

 人事評価制度の刷新や、夏休みなど一定期間だけ時短勤務に変更できる制度も新設されるなど、会社の姿勢から一時的な取り組みではないとも感じる。ただ、家族のサポートなどで成り立つ自身の境遇を「とても恵まれたケース」と思う。「まだまだ男性従業員の中では『縦社会』が根強かったり、長時間労働が当たり前だったりする。男性も働きやすい職場を目指さないと、女性が入っていくのは難しいだろう」

     ◇

【メモ】帝国データバンク大阪支社の22年の調査によると、兵庫を含む近畿2府4県の企業で女性管理職の割合は9・5%だった。政府は20年代のできる限り早期に「女性管理職30%」を目指すが、すでに達成した企業は9・4%にとどまる。全国の中小企業では、女性管理職が1人もいない企業が4割超(日本商工会議所調べ)を占める。

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