
延長戦は残り1分22秒。兵庫と福岡が同点で並んでいる。
タイムアウト明け。センターライン付近、福岡のエース森ムチャ(中村学園女高)がドリブルで迫ってきた。
自陣に踏み込ませまいと、兵庫は主将山下朋美(須磨学園高)と山中美佳(神戸龍谷高)が襲いかかるもファウル。
フリースローで、72-73と逆転を許した。
兵庫が攻撃に転じても、敵のゾーンプレスは厳しいまま。
パスは179センチの森に阻まれ、シュートに持ち込まれた。取り囲む山下と沢田悠(市尼崎高)の手も、届かない。
72-75、あと28秒。
◇
女王、福岡との根比べ。ここまで目立たないながらも兵庫を支えてきたのは、フォワードの荒木恵美(夙川高)だった。
コーチの高松一人が「バスケットIQが高く、競技本来の面白さを知っている」と評する背番号10は1回戦に続き、この日も出ずっぱりだった。
スタミナ豊富な18歳は「シュートを決めるより、パスの方が好き」。
身長170センチ。腕が長く、敵の背後から繰り出すブロックショットは職人芸の域だ。
肩幅の広さは、スクリーンを掛けるときに威力を発揮。相手選手がよく引っ掛かった。肩が味方選手の耳に当たり、「凶器やな」と冗談交じりに言われたこともある。
福岡戦、荒木は身をささげた。ボールつなぎに積極的に関わり、ポストプレー、リバウンドと動き回った。
延長の終盤、追い込まれても「まだいける」。
残り16秒。敵陣のサイドラインから河合敬子(夙川高)がスローインし、山中がキャッチ。荒木はトップからゴール下へと駆けながらパスを受け、シュートを放った。
1点差に詰め寄った。
ただ、これが兵庫最後の得点となった。
=敬称略。肩書、所属は当時=
(藤村有希子)
【あらすじ】2006年秋の兵庫国体バスケットボール少年女子で、選抜メンバーを組んだ地元兵庫。最大のヤマ場と捉えていた強豪・福岡との2回戦は延長に突入した。
