建物の基礎だけが残る荒れ地に粉雪が舞う。岩手県釜石市鵜住居(うのすまい)町。山あいに8店舗が入るプレハブの仮設店舗が立つ。
「ここで商売を再開して1年半。あと半年ほどで契約更新が来る。店は続けたいが、このままじゃ家族の生活が守れない…」。野菜や日用品などの商店を営む佐々木輝幸さん(37)が、不安をにじませる。自宅も店も流され、妻範子さん(35)、9、7、5歳の娘3人とともに近くの仮設住宅で暮らす。
鵜住居地区の死亡・行方不明者は580人。人口は2千人以上減り、4500人になった。約40店の商店会で再開できたのは半分ほどだ。
佐々木さんは両親を亡くした。遺体が見つかったのは3週間後だ。妻の実家のある同県花巻市に避難したが、店のことが頭から離れなかった。母親が懸命に切り盛りし、遠くに行けないお年寄りにとって「命綱のような」存在だった。
「仮設店舗が無料で借りられる2年間だけ、やらせてくれ」。採算度外視で範子さんに切り出した。「あんたのことだから言うと思ってたよ」と理解してくれた。
佐々木さんは警備員の仕事を続けながら、範子さんと働いている。店ができる喜び。しかし、経営は厳しく、大型店が近くに進出する。「今は何とかなるが、仮設を出れば投資もかさむ。人口が減る中で従来のやり方で商売が成り立つのか…」
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被災地には約50カ所、こうした仮設商店街がある。経済産業省の外郭団体が阪神・淡路大震災時の仮設工場を参考に整備した。賃料無料は原則2年。先行きの厳しさや後継者不足から、仮設で閉店を検討する店主も少なくない。
産業衰退、人口流出、高齢化…。震災はすさまじい被害とともに地方の衰退ぶりを浮き彫りにした。釜石はその典型だ。新日本製鉄(現新日鉄住金)の企業城下町として栄えたが、人口はピーク時(1963年)の半分以下の約3万7千人。高齢化率34・5%。日本の20年後の姿だ。
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佐々木さんは昨年8月から、仮設商店街の仲間らと、町の将来を考える勉強会に参加している。「暮らしたいと思う町をつくり、人が戻らなければ商売はできない」。そんな意見を投げ掛ける。
勉強会を企画したのは、神戸のまちづくり運営会社、神戸ながたTMO(長田区)の元総括マネジャー、東(あずま)朋治さん(38)だ。岩手県の依頼で派遣された。
仮設後を見据えた店舗再建は、まちづくりの重要課題だ。これは18年前の阪神・淡路大震災でも問われ、神戸の地域商業は今、苦境に立つ。東さんは言う。「ハードの計画が出来上がってからでは遅い。学習し、行動することが大切だ」
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被災地が再生し、コミュニティーが存続するには、地域に根ざした商業の存在が欠かせない。11日で東日本大震災から丸2年。苦闘する商店主らの姿を追う。(土井秀人)
〈釜石市の被害〉死者888人、行方不明者152人。津波で住宅の3割にあたる約4700戸、卸・小売業では6割の約400事業所が浸水被害を受けた。鵜住居地区は住宅の6割が全壊。岩手県全体の商業被害は445億円。
2013/3/8












