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第6部 不思議巡り

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 かつて、全国を席巻したツチノコ捜索ブームに乗って生け捕りに賞金2億円を掛けた町が兵庫県にあった。老若男女の好奇心を刺激したツチノコ。ドラえもんを読んで育った神戸新聞のエース記者が、本気で未確認生物を追う!

ツチノコ発見で2億円?!
日が暮れた峠道に、ツチノコ看板の赤い目が光る。スイッチの所在が分からず、昼間もつけっぱなしだ=宍粟市千種町下河野(撮影・大山伸一郎)
日が暮れた峠道に、ツチノコ看板の赤い目が光る。スイッチの所在が分からず、昼間もつけっぱなしだ=宍粟市千種町下河野(撮影・大山伸一郎)

 夕闇に、赤い目玉が怪しく光る。うねうねした愛嬌(あいきょう)のある胴体。兵庫県千種町(現宍粟市)が道の駅に設置した未確認生物「ツチノコ」の看板だ。

 全国を席巻した捜索ブームに乗っかった千種町は1992年、知名度アップを狙い、生け捕りに2億円の賞金を懸けた。当時の町長小原朗(あきら)さん(89)によると、津名町(現淡路市)が1億円相当の金塊を展示する町おこしで注目を集めており、対抗心から倍額に設定したそうだ。

 年間の町税収入は2億数千万円。万が一の財政破綻を危ぶむ声もあったが、強引な皮算用でねじ伏せた。見物客による経済効果だけで数億円、いざとなれば、見つかったツチノコを2億円以上で売ればいい-。

 未発見だったからこそ、笑い飛ばせる。ツチノコの正体についても、小原さんの熱弁は止まらない。

 「まあ、太ったヘビやろと思うとったけどな」

妙にリアル 好奇心刺激
「ツチノコを捕まえて、百科事典に載せるのが夢」と話す平瀬景一さん。今も手製のわなを仕掛けている=宍粟市千種町河呂
「ツチノコを捕まえて、百科事典に載せるのが夢」と話す平瀬景一さん。今も手製のわなを仕掛けている=宍粟市千種町河呂

 体長は30~80センチほど。胴が太く、色は黒、茶、グレーなど。春から秋に出没し、転がったり跳ねたり、まばたきもすれば、いびきもかく。

 未確認生物という割に、ツチノコの特徴はやたらに詳しい。この妙なリアル感と、近所の裏山にひょっこりいそうな親近感が、老若男女の好奇心をくすぐってきた。

 火を付けたのは、伊丹市在住の作家田辺聖子さん(90)が1970年代に著した「すべってころんで」とされる。ツチノコ探しに執念を燃やす男性が登場する物語だ。

 その後、人気漫画「ドラえもん」でも紹介されるなど、じわりブームが拡大。バチヘビ、カメノコ、ゴハッスン、タワラヘビなどの呼称で各地に伝わる類似の生物が、ツチノコに集約されていったようだ。

 「生け捕り2億円」で名をはせた兵庫県千種町(現宍粟市)も、70年代に捜索隊が結成されたときは「ノヅチ」と呼んでいた。中心人物だった元町職員の平瀬景一さん(82)は、2005年の近隣3町との合併で熱気が冷めてからも、一人で捜索を続ける“ツチノコハンター”だ。

 今も、農作業の合間を縫ってはわなを置くが、かかるのはヘビや小動物ばかり。町内の山々に片っ端から分け入った半世紀に及ぶ日々を振り返り、「違法栽培の大麻畑を見つけたことはあったんやけどなあ」。

捕獲ブーム 懸賞で町おこし
ツチノコを追い続ける宮脇壽一さん。発見者に手渡す予定の賞状や目録は日の目を見ないままだ=兵庫県香美町小代区神水、小代物産館
ツチノコを追い続ける宮脇壽一さん。発見者に手渡す予定の賞状や目録は日の目を見ないままだ=兵庫県香美町小代区神水、小代物産館

 奈良県下北山村、和歌山県すさみ町、広島県上下町(現府中市)、岐阜県東白川村…。1990年前後、千種町の2億円には及ばないものの、町おこしでツチノコの捕獲に100万円単位の賞金を懸ける自治体が相次いだ。

 そんな中、「土地100坪」という変化球で“参戦”したのが兵庫県美方町(現香美町)。だが、当時の町長の私有地だったため、寄付行為に当たる可能性が指摘され、問題になる。

 「発見者に贈る賞状を準備したり、それらしき生物が見つかって集客に利用したら実はヘビだったり、どれもこれも今では笑い話やね」

 80年代後半に地元有志で結成された「つちのこ探険隊」の隊長を務める宮脇壽一(としかず)さん(72)が話す。自治体としてのPRが比較的早かったこともあり、ブームへの便乗をもくろむ全国各地に「講師」として呼ばれ、見たこともないツチノコの特徴をしたり顔で解説していたという。

 探険隊は現在も存続するが、年1回、情報を交換する程度で、親睦の意味合いが強まっているそうだ。

男性発見 佐用に謎の生物
兵庫県佐用町在住の男性が十数年前に発見したという謎の生物。ツチノコの特徴には当てはまるが…
兵庫県佐用町在住の男性が十数年前に発見したという謎の生物。ツチノコの特徴には当てはまるが…

 結局、千種町でも美方町でも、他の地域でもツチノコは見つからなかった。里山の荒廃が進んだとしても、ここまで発見されないとなると、やっぱりヘビなのか。

 それでも、千種町のツチノコハンター平瀬さんは実在を信じる。「誰にも教えたことはないんやけど」。ためらいがちに、1枚のメモを差し出した。佐用町の住所が書いてある。

 訪ねると、出てきたのは70代の男性。「平瀬さんの紹介なら」と笑みを浮かべ、脱脂綿が詰まったプラスチックケースを持ってきた。「これを見たんは、10人とおらんで」

 体長約20センチ、ヘビのような頭と尾を持つ一方、胴が異様に膨らんだ生物の標本だ。黄土色の表皮に白い腹。トカゲにも見えるが、足はない。

 外観からも質感からも、作り物ではなさそうだ。これはひょっとして、いや、うーん、まさか…。

 男性の証言では、2001年初春、千種町内の崩れた山の斜面で捕らえたらしい。程なく死んだが、鑑定を依頼した学者は「日本で確認されていない生物」と評したという。

 ただ、学者の名前も所属も忘れてしまい、鑑定書もない。男性に本格的な再鑑定を勧めてみたが、「この年になって、騒ぎに巻き込まれたくない」とかたくなに拒むため、真贋(しんがん)を確かめようがない。

 男性宅を辞し、千種町に戻ってからも、興奮と疑念が胸に渦巻く。標本と男性の笑顔を思い返すうち、漫画「ドラえもん」のストーリーがよみがえってきた。

 ツチノコの発見者になろうとしたのび太が、未来の世界でペットとして飼われている個体を持ち帰ったものの、逃げられてしまい、ジャイアンに栄誉を持っていかれる-。

 詳しい素性の公表を嫌った男性。一つだけ言えるとしたら、彼がどことなく、ジャイアンに似ていたということだ。(記事・小川晶 写真・大山伸一郎)

余白の余話
神戸新聞NEXT
神戸新聞NEXT

 「ツチノコが冬眠から覚めたわよ」。宍粟市千種町で取材中、道の駅ちくさを運営する社会福祉法人の目黒輝美理事長(73)が、ドキッとする情報を教えてくれた。

 指さす先には、ツチノコをモチーフにした2体の着ぐるみ。ブームの終息とともに倉庫に押し込められていたのを見つけ、今春から道の駅で展示している。新たなツチノコグッズも試作中らしい。ブーム再燃の兆しが少しずつ見え始めている。

 ちなみに、着ぐるみは誰でも着用OK。「それならば…」。詳しくは、動画をご覧ください。

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