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第6部 不思議巡り

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 「日本一の高級住宅地」と称される芦屋。豪邸が並ぶ山手の六麓荘町と、クルーザーがひしめくマリーナや船を係留できる邸宅地などがある潮芦屋地区を巡り、富裕層をとりこにするわけを探った。

日本一の高級住宅地
豪邸訪問。白や赤を基調に、高級感あふれる室内=芦屋市六麓荘町
豪邸訪問。白や赤を基調に、高級感あふれる室内=芦屋市六麓荘町

 玄関に一歩足を踏み入れると、目が覚めんばかりの真っ白な内装。天井には黄金のシャンデリアがきらめく。真っ赤なカーテンを開ければテラスが広がり、眼下に大阪湾や都心の高層ビル群が見渡せる。

 「イメージは、ヨーロッパの宮殿です」。オーナーの会社経営者が邸内を案内してくれた。

 ここは兵庫県芦屋市の六麓荘(ろくろくそう)。「日本一の高級住宅地」と称される芦屋でも、群を抜いて富裕層が集まる街である。

 王侯貴族さながら、西洋磁器マイセンのティーカップ(24万円)でお茶を飲み、イタリア製のチェア(80万円)でくつろぐ。ホームパーティーにはなじみの板前を呼び、その場で懐石料理を作り、客をもてなす。

 「いやいや、この街にはもっとすごいお金持ちが山ほどいますよ」。会社経営者は事もなげに言う。あまたの富豪をとりこにしてきた街・芦屋。それにはわけがある。

ベンツ通り、御用聞き、高額寄進…
高級食材もそろう、いかりスーパーマーケット芦屋店=芦屋市岩園町
高級食材もそろう、いかりスーパーマーケット芦屋店=芦屋市岩園町

 神戸から車を走らせ、国道2号を左折して芦屋市六麓荘(ろくろくそう)町へ。この南北道、誰が呼んだか「ベンツ通り」。メルセデス・ベンツ、ポルシェ、ロールス・ロイス、ベントレー…。すれ違うのは高級外車ばかり。ハンドルを握る手に力が入る。

 沿道にある「いかりスーパーマーケット芦屋店」。駐車場は7~8割が外車。「運転手付きのお客さまもよくいらっしゃいます」。藤原英司店長(50)には見慣れた光景だ。

 「マグロのちょっと脂が乗った部分を」「サーロインの脂身の少ないのを少しだけ」。電話1本で、店員が好みに合わせて商品をそろえ、自宅まで届けてくれる。「御用聞き」とも呼ばれる宅配サービスの利用は、多い日で1日約40件。1回で数十万円の注文が入ることもある。

 六麓荘町の南西、住宅街の一角に鎮座する芦屋神社。境内には関西財界の社長らが寄進した石柱が400本。高額にもかかわらず年10本のペースで増え続け、場所の確保に苦心するほどだ。「ほかの地域にある同規模の神社なら、寄進は10年に1度あるかないか。やっぱり土地柄でしょうか」と山西康司宮司(48)。

六麓荘 自ら守り育むブランド
広々とした道路に、緑豊かな豪邸。町独自のルールが超高級住宅街をつくり上げてきた=芦屋市六麓荘町
広々とした道路に、緑豊かな豪邸。町独自のルールが超高級住宅街をつくり上げてきた=芦屋市六麓荘町

 西の芦屋、東の田園調布。日本のビバリーヒルズ…。高級住宅地のイメージが定着した芦屋も、明治期までは農村だった。御影(神戸市東灘区)などに始まる神戸・阪神間の「郊外住宅地」ブームは、1905(明治38)年の阪神など鉄道の開通と沿線開発により、山と海が近く自然豊かな芦屋にも広がっていく。

 「特徴的なのは、大正から昭和初期に土地耕地整理事業を進めて田畑を売り、自らが住宅都市として生きる道を選んだこと」。芦屋市教育委員会生涯学習課の竹村忠洋さん(46)が指摘する。

 21(大正10)年の武庫郡誌は、精道村(現芦屋市)について「紳士富豪の別荘住宅を構ふるもの多く、土着者都人士(とじんし)の風を眞似(まね)」「全然純農時代の趣を失ひ」(抜粋)と記す。竹村さんは「大阪や神戸の都心などから富豪が移り住み、人口が急増した。土地を売った元々の住民も豊かになり、豪華な暮らしぶりが話題になっていたのでしょう」とみる。

 高級住宅地のイメージを決定づけたのが、29(昭和4)年から本格化した、「東洋一の健康地」を掲げた六麓荘町の開発だった。

 町内の大半のエリアには、電柱や信号がない。街灯越しに見える空は広く、高い。巨大な石積みや意匠を凝らした大邸宅に目を奪われる。現在、約270世帯が暮らすが、コンビニなどの商業施設は一切ない。「超」のつく資産家の街の景観と暮らしは、住民自らが守ってきた。

 町内会は入会金50万円。独自基準の建築協定がある。建てられるのは最低敷地面積400平方メートル、緑地率30~40%以上の一戸建てのみ。建築前には近隣住民を集めて説明会を開く。“紳士協定”のため、最低敷地面積など一部は市が条例化した。

 芦屋不動産代表取締役の深見恵子さんは「六麓荘は今も超富裕層にとっての憧れの地。住むことがステータスになり、時代ごとに勢いのある業種の社長らが土地を買い求める」と話す。バブル期の地価は坪700万円まで上昇。今は100万円前後に落ち着いたが、豪邸「トップ10」は絶えず入れ替わるという。

 町内会の川口辰郎会長(66)は「戦前から住んでいるのは、うちを含めて10軒程度だが、豊かな自然や周囲と調和した街並みをみんなで守っていきたい」と話す。この姿勢こそが乱開発を防ぎ、風格やブランドを保つ原動力となってきた。

海の手にも「超高級」
クルーザーが並ぶ芦屋マリーナ。奥には船を係留できる邸宅が広がる=芦屋市海洋町から望む
クルーザーが並ぶ芦屋マリーナ。奥には船を係留できる邸宅が広がる=芦屋市海洋町から望む

 巨大な豪華客船が海に浮かんでいるような外観が目を引く。

 今年2月、市南部の埋め立て地・潮芦屋地区に開業した会員制の「芦屋ベイコート倶楽部(くらぶ)ホテル&スパリゾート」。総事業費約313億円。最も高いロイヤルスイートの会員権(年間24泊)は約3800万円。宿泊費や食費はその都度かかるが、連日、富裕層らでにぎわう。

 すぐそばの芦屋マリーナには高級クルーザーが並ぶ。門扉で囲まれた敷地には管理人が常駐し、自宅前に船を係留できる邸宅地も見える。「海のある景観が、山手とは違った魅力を生み出している」と、管理・運営会社の由井雅春取締役(56)。

 住民が守り、育んできた「芦屋ブランド」。海の手に広がる新たな街も、それを礎に歴史を刻んでいく。

(記事・上田勇紀 写真・斎藤雅志)

余白の余話
神戸新聞NEXT
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 六麓荘へ取材に向かう社有車は、国産の小型車。一家に何台もある高級外車に囲まれて、小回りの利くこの車はむしろ目についた。

 芦屋マリーナには億単位の高級クルーザー。会員制ホテルの客室やロビーは異次元の豪華さ。思わず声を上げた。

 あまりにも身近に、リッチな暮らしがある。手が届かない別世界。帰りの車中、カメラマンとため息をつく。「どうしたら、ああなれるんやろ…」。長い沈黙が続いた。

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