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第8部 祭り不易流行

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 兵庫県随一の祭りどころ、播磨。中でも絢爛豪華な屋台を練り合わせ、差し上げる姫路を中心に秋祭りの魅力に迫る。まずは男たちの掛け声や太鼓の音に耳を澄ませる。「サイテバチョーサ」「ヨーイヤサー」

神人一体 気概の台場差し
「サイテバチョーサー」の掛け声とともに、屋台が宙に浮く。白い手袋の24人が泥台と角を必死の形相で支える=姫路市飾磨区須加、浜の宮天満宮(撮影・大山伸一郎)
「サイテバチョーサー」の掛け声とともに、屋台が宙に浮く。白い手袋の24人が泥台と角を必死の形相で支える=姫路市飾磨区須加、浜の宮天満宮(撮影・大山伸一郎)

 空は高く、青い。

 9月16日、姫路市飾磨区須加、浜の宮天満宮。氏子地区の一つ、天神町(てんじんまち)で28年ぶりに新調した屋台の入魂式があった。漆塗りを施す前の真新しい白木の屋台は、重さ1・5トンの先代から二回りも大きくなった。

 神事が終わると、境内は身動きが取れないほどの人であふれた。新屋台で初となる市重要無形民俗文化財の妙技「台場差し」。安政2(1855)年に始まったとされ、天神を含む4地区が受け継ぐ。

 24人の男衆が屋台の土台に当たる「泥台」と「角(つの)」を支え、両腕を伸ばして高く差し上げる力技。差し上げている間の太鼓の音を数える。約100人いる練り子から24人に選ばれるのは最高の誉れ。しかし、一歩間違えば命に関わる。

 「はよ、乗れ」。祭典委員会の筆頭幹事長、姫﨑州平さん(41)の目が光る。視線の先には、この日初めて乗り子(太鼓打ち)の頂点、台場差しの真打ちを担う次男塁也(るいや)さん(18)。準備が遅れたのを見逃さない。塁也さんは慌てて襦袢(じゅばん)を羽織り、頭巾をかぶって屋台に乗り込んだ。

 天満宮の赤いお守りが配られた。白いまわしに挟み込む。辺りが、水を打ったように静まり返る。

 「チョー!」。練り子が本棒と脇棒を押し上げ、屋台を差し上げる。州平さんが叫ぶ。「サー!」。全員が続く。「イー、テー、バー、チョー、サア!」

 練り子が屋台を宙に放り投げた瞬間、泥台に潜り込んだ24人が手足をぴんと伸ばす。塁也さんがドンと重い太鼓を響かせる。

 「屋台と地面のつっかえ棒になる感覚や」。泥台を支えて約20年、祭典委員長の有元伸一さん(54)は言う。紅潮した背中に噴き出す汗。掛け声の中、無心に歯を食いしばる。

 だが、大型化した屋台に呼吸が合わない。雪崩のように倒れた。観衆のため息が漏れる。州平さんが叫んだ。「もう1回やあ!」

 「サ、イ、テ、バ、チョーサアアアー!」

 ぶつかり合う意地。両腕で頭上に差し止めて静止する。神と人が一体となる瞬間。太鼓は3回を数えた。午後は6回と安定した。

 晴れの舞台に懸ける男たちの気概が一つになり、伝統の妙技は新たな歴史を刻んだ。

チョーサ 語源は「招財」説
祭りが近づくにつれ、世代を超えて熱気が増す太鼓の練習。奥には白木屋根の新調屋台が輝く=姫路市飾磨区天神
祭りが近づくにつれ、世代を超えて熱気が増す太鼓の練習。奥には白木屋根の新調屋台が輝く=姫路市飾磨区天神

 「サイテバチョーサー」。初めて耳にすると、まじないのようだ。

 毎年10月8、9日、浜の宮天満宮(姫路市飾磨区須加)の秋祭りで披露される「台場差し」には、この不思議な掛け声が欠かせない。一体、どんな意味が?

 約45年、在野で祭り屋台の研究を続ける粕谷宗関(かすたにそうかん)さん(73)=同市飾磨区=によると、「サイテバ」は「祭典場(さいてんば)」、「チョーサ」は中国語の「招財(チョーサイ)」を語源とする。招財は神輿(みこし)とともに中国から伝わり、めでたい時に使う言葉だという。幼いころ、台場差しをする屋台の屋根下を飾る狭間(さま)彫刻に魅せられ、祭りにのめり込んだ。各地を歩き、宮司らから話を聞いてたどり着いた答えだ。

 淡路島の祭りでは「チョーサジャ」の掛け声がある。香川県西部では太鼓台そのものを「チョーサ」と呼ぶ。粕谷さんは「チョーサは祭りの共通語や」と熱っぽく語る。

 甲南大の都染(つぞめ)直也教授(59)=社会言語学=は、播州を南北に貫く市川を境にした掛け声の変化に注目する。「川の西で『チョーサ』、東で『ヨーイヤサー』が多いのでは」。過去のゼミ生による調査では、屋台の呼び方にも違いがあり、西側は「ヤッタイ」、東側が「ヤッサ」。「例外はあるが、川が祭り文化の境界線」とみる。自身は市川の東側、姫路・的形の出身である。

車のナンバーや公共施設にも
「4183(ヨーイヤサー)」ナンバーの愛車を前に、祭りへの思いを語る鈴木健太郎さん=姫路市飾磨区妻鹿
「4183(ヨーイヤサー)」ナンバーの愛車を前に、祭りへの思いを語る鈴木健太郎さん=姫路市飾磨区妻鹿

 「チョーサ」といえば、提灯(ちょうちん)祭りとも呼ばれる魚吹(うすき)八幡神社(姫路市網干区宮内)の秋祭り。毎年10月21、22日、「チョーサ」の掛け声とともに、担ぎ手が屋台を一気に頭上に差し上げ、空中に放り投げる大技で知られる。

 網干地方史談会会長の増田政利さん(76)は「幼いころはおもちゃの屋台を作って『チョーサ』をしよった。チョーサを聞けば、『ああ、今年も祭りやな』と思う」としみじみ。網干には「リフレ・チョーサ」という名の市立健康施設もある。それほど「チョーサ」はなじみ深い。

 氏子数で播州最大と言われる同神社。屋台を出す18地区のうち、西土井地区(同市大津区)は「チョーサ」の掛け声を使わない。

 元自治会役員の土居教宏(のりひろ)さん(64)によると、明治-大正の約30年間、屋台がない空白期があった。1926(大正15)年に新調した際、担ぎ方や掛け声を飾磨で習い、今もその流儀を継承する。土居さんは「掛け声は『ヨーイヤサー』。これが西土井の伝統や」と胸を張る。

 ますますの繁栄を意味する「弥栄(いやさか)」などがルーツとされる「ヨーイヤサー」は、松原八幡神社(姫路市白浜町)の「灘のけんか祭り」(毎年10月14、15日)でも響き渡る。

 今年の運営を担う「年番」を務める妻鹿(めが)地区の鈴木健太郎さん(36)は「年中、祭りに関わっていたくて」と笑いながら、マイカーのナンバーを指さした。「4183」。もちろん、「ヨーイヤサー」と読む。

 生後11カ月で法被を着込み、母くるみさん(64)に抱えられて祭りに初参加した。締め込み姿の男たちに憧れ、小学4年で獅子舞の列に加わった筋金入りの祭り好きだ。

 実は、くるみさんの車も同じナンバー。「息子と一緒の車屋さんで買い替えたら、勝手に決められとったんよ。まあ、自分で選んでも4183にしとったけど」。家には2台の「ヨーイヤサー」が並ぶ。

音を継ぎ 心意気を継ぐ
入魂式の日、初めて台場差しの真打ちとして屋台に乗り込む姫﨑塁也さん=姫路市飾磨区須加、浜の宮天満宮
入魂式の日、初めて台場差しの真打ちとして屋台に乗り込む姫﨑塁也さん=姫路市飾磨区須加、浜の宮天満宮

 太鼓の音に、子どもたちの甲高い掛け声が重なる。

 姫路市飾磨区天神の屋台蔵。新調屋台の入魂式から3日後の夜、祭り本番に向けた太鼓の練習が熱を帯びていた。小中学生ら約15人が太鼓代わりのタイヤを囲み、先輩の手ほどきでバチを動かす。

 4人の乗り子には脇、副真(ふくしん)、真打ちと階級がある。真打ちにも町(ちょう)練りより宮入り、宮入りより台場差し-と場面ごとに序列がある。練る時の「ヨーイヤサー」、狭い道を行く時の「エンヤーヨッソイ」…。その強弱やリズムを体にたたき込む。

 入魂式で台場差しの真打ちを務めた姫﨑塁也(るいや)さんの姿もあった。「もっと4人の息を合わせたい」と精進する。弟に真打ちを譲り、台場差しに入った兄仁(じん)さん(22)が手本を見せる。「練り子の声を聞け」。父州平さんの言葉を、背中で伝える。

 親から子へ。子から孫へ。音を継ぎ、心意気を継ぐ。今年も各地で意地がぶつかり合う。はやる心を抑えつつ、ドラマの開幕を待ちわびる。

(記事・上田勇紀、小川 晶 写真・斎藤雅志、大山伸一郎)

余白の余話
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 姫路市飾磨区天神の公民館で、乗り子が手にする太鼓のバチを握らせてもらった。長さ約30センチの木製で、ずしりと重い。「太鼓打ちが下手なら担げへん。練りの良しあしは太鼓で決まるんや」。筆頭幹事長の姫﨑州平さんの口ぶりは熱い。

 太鼓の練習は夜、子どもたちが帰った後も続いた。新調屋台から繰り出される音に聞きほれる。練習を見守る男たちも何も持たない手を動かし、無意識にたたく所作を繰り返す。恍惚(こうこつ)とした表情には、祭りへの愛情があふれていた。

天気(9月26日)

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