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第8部 祭り不易流行

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 兵庫県播磨地方の秋祭りを美味しく彩る料理の数々。台所を休みなく駆け回る女たちが作り上げる、もう一つの祭りの華だ。コノシロずしやワタリガニ、シャコにマツタケ、姫路おでん。山海の幸満載のおもてなし、いまだ消えず。

女たちのけんか祭り
食材も豪華絢爛(けんらん)。女性たちの心づくしの料理が祭りを支える=姫路市東山
食材も豪華絢爛(けんらん)。女性たちの心づくしの料理が祭りを支える=姫路市東山

 「お皿、ガレージから取ってきたらいい?」

 「ありがと」

 女性6人、勝手知ったる台所を縦横無尽に動く。同じメンバーで約30年。話さずとも役割分担ができていて、動作に無駄がない。

 兵庫県姫路市東山の会社経営、幡中伸一さん(56)宅。松原八幡神社(同市白浜町)の秋季例大祭を前に13日午後、豪勢な料理が並んだ。

 コノシロずし、ワタリガニ、シャコ、マツタケ、大鍋の姫路おでん-。

 「『ないと寂しい』言われるから。主人孝行やね」と妻の美和さん(53)。当のあるじは、家の庭に出たまま落ち着かない。

 毎年、伸一さんと同級生の組織「連中(れんじゅう)」の面々、家族がここで飲食する。女性たちは朝から準備にかかりっきりだが、夜の集合にはまだ時間がある。

 台所から絶えず笑い声が響く。百戦錬磨の女子連中、話のさかなは…。「さすがに今は入っていかれへんやろ?」。伸一さんが首をすくめた。

海、山の幸満載 桟敷の華
灘のけんか祭りの本宮で神輿をぶつけ合うお旅山。自慢の5段お重の「桟敷料理」が並ぶ=姫路市白浜町
灘のけんか祭りの本宮で神輿をぶつけ合うお旅山。自慢の5段お重の「桟敷料理」が並ぶ=姫路市白浜町

 10月15日、松原八幡神社(兵庫県姫路市白浜町)の秋季例大祭「灘のけんか祭り」本宮で、神輿(みこし)が音を立ててぶつかり合うお旅山。この地の女性たちにとっても戦いの場所である。

 5段のお重に、色味も鮮やかなワタリガニ、エビ、サワラ、イカ、カマボコ、レンコンやニンジンの煮しめ、コノシロずし-。

 親類縁者らを特等席に招き、海、山、野の幸でもてなす「桟敷料理」は、隣近所と競い合ううちに豪華になってきたといわれる。

 祭りのお膝元、妻鹿(めが)地区の竹内悦子さん(60)は、昔ながらの手作り派だ。今年も午前5時からフライパン九つと鍋四つを洗い洗い奮闘し、作り終えると11時になっていた。

 「主人が祭り好きで、作らんわけには」と苦笑しながらも、客人のリクエストで揚げ物を増やすなど進化を続けている。

 魚吹(うすき)八幡神社(姫路市網干区)に程近い網干地方史談会会長の増田政利さん(76)方には、秋季例祭(10月21、22日)の期間中、昼に夜に、大勢が訪れて飲食を共にする。

 「この辺りでは、コノシロより『ツナシずし』言うね」と妻の和子さん(74)。大ぶりのエビや五目いなり、巻きずし、コイモやレンコンの煮しめ、おでんなど食卓の皿を見渡しては空になる前に追加する。「調理は苦にならない。食べるのを楽しみに来ての人もいますから」。笑いつつも、手は休めない。

寝る間も惜しみ料理に腕
伊和神社の秋祭り。柴原美恵子さん方には、尾頭付きのサバずしとコノシロずし、栗おこわが並んだ=宍粟市一宮町東市場
伊和神社の秋祭り。柴原美恵子さん方には、尾頭付きのサバずしとコノシロずし、栗おこわが並んだ=宍粟市一宮町東市場

 屋台こそ担がないが、寝る間も惜しんで料理の腕を振るい、夫や息子の祭りを支える女性たち。

 兵庫県立大環境人間学部教授の坂本薫さん(57)は「米や砂糖をぜいたくに使うすしをはじめ、祭りにごちそうでもてなすのは女性の誇りだった」と話す。

 伊和神社(宍粟市一宮町)の秋季大祭(10月15、16日)を迎え、今年も氏子地区の東市場に住む柴原美恵子さん(60)方の食卓には、尾頭付きのサバずしとコノシロずし、栗おこわが並んだ。

 以前は来客の土産用などに40本分を仕込んだサバずしも、8本にまで減らした。とはいえ、年1度のごちそう作りに手は抜けない。

 背開きの塩サバの骨を取り、水にさらして塩を抜く。砂糖、みりん、少しの塩を加えた酢に一晩漬け、翌朝にすし飯を詰める。蔵から出してきた年季の入った木箱に一晩寝かせると、ようやく出来上がり。毎年、その年の米の生育や気候に合わせ、味付けを微妙に変える。

 「腕試しの機会でもある。1、2年やらんと勘が鈍る」

 何日も手を掛けて作る分、飽きが来ない。少しぐらい残っても、すぐに「また食べたい」と言われる。

祝い膳の伝統に触れる
祭りを前に祝い膳を囲む児童。山のワラビと里のコイモ、海のレンコダイを味わう伝統に触れた=姫路市木場、八木公民館
祭りを前に祝い膳を囲む児童。山のワラビと里のコイモ、海のレンコダイを味わう伝統に触れた=姫路市木場、八木公民館

 共働きの増加や核家族化、海産の高騰もあり、家庭で作られる機会は減ったが、祭りに料理は欠かせない。

 まねき食品(兵庫県姫路市)では、この30年で注文が膨らみ、10月の祭りだけでオードブル2500食、弁当やすしは約4万食も売れるという。

 「家庭の好みに対応し、手間も省けるよう揚げ物などを増やした。祭りの時期の工場はフル稼働。販売エリアも広がっている」と総料理長の中野秀清さん(65)。祭りが終わると弁当の空き箱を回収するなど、今やなくてはならない存在だ。

 一方、姫路市木場(きば)にある八木公民館の調理室では、けんか祭りに先立つ今月1日、薄口しょうゆや酒が入っただしの香りが漂った。

 鍋を火に掛けるのは、近くの小学6年生。毎年、周辺では山のワラビと里のコイモ、海のレンコダイを食べて祝う習わしがあり、開校記念日の休日に伝承する会を開いている。

 子どもたちに聞くと、祝い膳をする家庭は少なく、この日も朝食はおもちやパンだったそう。

 館長の筒井康行さん(71)が「灘まつりが無事に終わるよう祈って、いただきます」と呼び掛けると、一斉に声を上げ、はしを伸ばした。男児の一人は「このタイおいしいね。祭りは大好き」とはにかんだ。

 播州の祭り料理にも詳しい伝承料理研究家の奥村彪生(あやお)さん(81)は「昔の日本人は気候風土や産物をよく知り、金がなくてもハレの日には工夫してごちそうを作った。今は何でも手軽に買えるから工夫しない。便利すぎて逆に不便やね」とみる。

 これ以上ないハレの日を彩る。心づくしのごちそうをこしらえる人、いただく人。今年もまた料理を囲めた幸せをかみしめる。

(記事・佐伯竜一 写真・大山伸一郎、斎藤雅志)

余白の余話
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 「ここらは、正月よりも祭りの食事にお金をかける」

 播磨各地での取材を通じ、何度か聞いた。が、シャコなどの値上がりはすさまじいらしく、「今年はあきらめた」という声も多かった。

 手作り派は今や、少数派かもしれない。それでも「みんなで食べるの楽しいやん。いつまでするんやって言いながらも、主人のうれしそうな顔を見るとねぇ」。女性たちがつないできた愛の味。ごちそうさまでした。

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