■減る継承者 管理重荷に
汚れが染みついた墓石が傾き、立っているのがやっと。力尽きたように横倒しになった墓石もある。手向けられた花は茶色く枯れ、生い茂った雑草が無残な姿を覆い隠す。
高砂市阿弥陀町の共同墓地の一画は、ここ数年、墓参りをされた形跡はない。受け継ぐ人がいなくなった「無縁墓」なのだろう。
放置された墓は、地域を離れた子孫に忘れ去られたのか、家が途絶えたのか。地元の古老にもはっきりとは分からない。元自治会長の魚橋仁司さん(82)は2、3割が無縁墓になっているとみる。「詳細な記録もなく、荒れていても自治会で勝手に片付けるのはためらわれる」
墓地内のれんが造りの施設は、60年ほど前まで使われていた火葬場。前の広場が葬儀を行う会場だったといい、魚橋さんは「棺を運んできてその石台に載せ、村人全員が並んで見送った」と、半世紀以上前の光景を振り返る。その頃、どの墓がどの家のものかは明確で、明文化された決まりがなくても環境は維持できた。「昔はみんなの大切な場所だったが…。このままではどんどん無縁墓が増えていく」と顔を曇らせる。
魚橋家は6代以上、今の高砂市内で続いてきた。将来は自分もこの墓地に眠るつもりで、数年前に思い切って古くなった墓石を新調した。
「何年もそうやって大事に引き継いできた。墓や墓参りがなくなったら、いつどうやって先祖の話を子らに伝えるんでしょうか? とても大事なことなのに」
* *
「将来、代々の墓が無縁墓になってしまわないか」。墓の所有者らの危機感は高まりつつある。神戸市が2015年に実施したアンケートでは、墓を持つ人のうち約11%が「継承者がいない」、約14%が「将来、子や孫に負担させたくない」と回答。少なくとも4人に1人が「墓じまい」を検討しているとした。
明石市の山本建也(たつや)さん(72)は「墓に関しては、人一倍苦労してきた」と振り返る。今も年に3回ほど墓参りのために、山口県の故郷に帰る。車で片道4時間半。山中にある墓にはやぶをかき分けながら登り、ようやくたどり着く。そのままでは自然の山に帰ってしまうため、墓の周囲の竹を伐採するなど手入れを続けてきた。
故郷を出てもう半世紀。既に両親は亡くなり、親戚もほとんど残っていない。兵庫県で就職して全国各地を転勤する間も、長男として墓の世話を欠かさなかった。
でも最近は「今のままの形では残せない」と思うようになった。東京に住む息子や娘に引き継いでも、同じような管理を続けるのは難しい。「自分たち親が元気なうちに、前向きに考えられるうちに、墓じまいをしなくてはならない」
山本さんは今、墓じまいをした後、遺骨をどこに納めるかに頭を悩ませている。「子や孫に同じ苦労はさせたくない。できるだけ負担なく墓参りできる形にして引き継ぎたい」(切貫滋巨)
2019/1/25