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(1)考古学から 立命館大理工学部 高橋学助教授
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危険度分かる発掘調査 災害踏まえた開発を

 現在のところ、地震を予知することは不可能である。予知できるようになったとしても地震そのものを避けることはできない。

 これに対し、地震が発生した場合、どの場所が被害に遭いやすいか予測することは可能である。今回の阪神大震災の場合にも兵庫県や神戸市の発行した発掘調査報告書にたびたび危険地域が指摘されていた。

 災害と発掘調査というと、一見関係がないようにみえる。しかし、遺跡が埋もれるということはほとんどの場合、地震、洪水、火山の噴火などの災害が原因である。遺跡を発掘するということは、私たちの祖先がどんな生活をしていたのかを明らかにするだけではない。

 祖先はどのような場所に生活し、どのような災害に遭ったのか、その後どのように復旧したのか。遺跡は自然環境の変遷や災害、土地開発の歴史を教えてくれる。私の専門とする環境考古学は、過去の出来事を知り、それを現在や未来の生活に生かすことを目的とする。

 今回のような地震の痕跡は、これまでしばしば発掘調査で検出されている。神戸市内に限っても深江北町遺跡(奈良-平安前期)、坊ケ丘遺跡(平安末-鎌倉初頭)、群家遺跡(縄文早期、古墳中期-後期)、住吉東古墳(同)、西求塚古墳(安土桃山時代)などの遺跡で地震の痕跡が発見されていた。決して神戸は地震のない所ではなかった。

 今回の地震の被害は、特定の過去を持つ土地に集中している。一つは約六千四百年前ごろに海であり、四千年前ごろには潟であった場所である。ここでは一戸建て住宅や四、五階建てのビルが特に被害を受けた。地層が軟らかく震度が大きかったことが原因である。

 もう一つ被害が集中したのは、古くて固い地層と新しくて軟らかい地層の境目。ここでは高速道路、鉄道、中・高層ビルなど比較的規模の大きな建造物が被害を受けている。例えば阪神高速道路の場合、一番大きな被害の生じた地点は六千四百年前ごろは海岸線だった。軟らかい海側の地層と固い陸側の地層とでは、地震に際して揺れ方が異なり、その境目に大きなストレスがかかったと考えられる。

 高速道路、鉄道、高層ビルの場合、地層が軟らかく均一な場合は、あまり被害が大きくなっていない。現在は埋もれてしまった旧河道の上で、家屋の倒壊が顕著であった。

 災害は忘れたころにやって来るのではない。私たちが土地の履歴を忘れ不適当な土地利用をすると、地震や洪水の際に大災害になりやすいのである。

 過去の土地の履歴を知ることで、被害のタイプや大きさを予測することが可能である。その精度は建物一戸一戸のレベルまで既に到達している。土地の履歴を踏まえた上で土木・建築技術を駆使すれば、被害を随分軽減することができると考えられる。

 近い将来やって来るであろう南海地震など大地震の際には、今回の教訓を生かし被害を最小限に食い止めなければならない。それが五千四百人を超える犠牲者の方々へ報いることであると思う。行政の責任は重い。

略歴 高橋学(たかはし・まなぶ)1983年立命館大大学院博士課程修了。大学院在籍中から約10年間、全国の埋蔵文化財発掘調査に参加。94年4月より同大理工学部建設環境系教授(環境考古学)。

1995/2/21
 

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