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(4)地震学から 建設省建築研究所・石橋克彦応用地震学室長
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防災に研究成果生かせ 災害想定した都市計画を

 兵庫県南部地震による大震災では、地震科学の研究成果が自治体の防災対策に生かされないまま、大惨事を招いてしまった。震災の状況と要因についても、寝耳に水といった論調が多いが、ほぼ拙著「大地動乱の時代」(岩波新書)で首都圏を例にとって指摘した通りだった。ところが今また、復興計画において、重要な地震学の知見が見過ごされそうな危ぐを覚える。

 その知見とは、あと数十年以内に、四国沖でマグニチュード(M)8級の巨大地震が、ほぼ確実に発生すると予想されることである。この地震は、紀伊半島・四国南半を中心に中部・山陰・九州にまで震災をもたらすだろうが、阪神地域も再び震度6の強震動と津波に襲われるはずだ。直下地震の、強烈だが短時間の揺れとは違って、長周期の強震動が長く続くから、今回大きな被害を免れた地盤や構造物が被災する恐れがある。

 国際防災都市として再生した神戸で、超高層住宅が機能を失い、多数の住民が再び避難所を埋めるといった事態が起こらないように、地震動や津波のシミュレーションなどに基づいた最適な都市計画と、入念な建設を望みたい。

 今回の地震によって、東北西岸・信越・中部・北陸・近畿などで大地震が起こりやすくなる可能性がある。一方、近い将来、小田原地震、M8級東海地震、首都圏直下の大地震などの続発も懸念される。つまり、十年を一単位とするような時間尺度でみれば、日本列島のほぼ全域で、大地震との共存を真剣に考えざるを得ない時代に入る。

 全国で都市の地震対策の見直しが始まったのはよいことだ。だが、都市の震災の大きな要因は「過密」であることと、自然の力は底知れず、耐震技術には限界があることを忘れてはならない。

 大地震は山間部をも襲う。過疎化が進行し、農地・山林が荒廃しつつある現状では、地震時とその後の山崩れが以前より起こりやすいといった問題がある。それは現地の災害にとどまらず、下流の都市の洪水や海洋汚染なども引き起こす。したがって、日本全体の震災を軽減するには、都市への集中を見直し、国土全体の人口や産業のバランスを回復することが不可欠である。これは、地球環境と人類の危機が迫るなかで、地震を別にしても最重要課題のはずだ。声高に言われる都市防災や危機管理と同時に、この根本的な対策を急ぐべきだろう。

 神戸・阪神間でも、もちろん、避難者の生活の一刻も早い安定化と、都市と産業の復興が急務だが、京阪奈地区と後背過疎地を視野に入れた関西圏や、西日本全体の構想のもとに再生してほしいと思う。

 「活断層」「直下型地震」などの言葉が急に注目されているが、誤解も生じているのが気になる。首都圏直下地震のように、震源が深くて活断層と関係なく起こるものも多いのだ。また、強い地震動は地盤の影響が非常に大きいから、日本の都市の大多数では、むしろ地盤を気にすることが重要である。

 一方、地震科学としては、従来の地震予知一辺倒の姿勢を改め、新たに「地震災害軽減計画」を構築し、活断層調査を含む全国の地震危険度評価のうえに、地震予知や早期検知などを組み合わせていくべきだろう。

略歴 石橋克彦(いしはし・かつひこ)建設省建築研究所応用地震学室長。東大理学部卒。同理学部助手を務めていた1976年に東海地震説を発表。50歳。神奈川県出身。                              

1995/2/24
 

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