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(3)耐震工学から 京大工学部・家村浩和教授
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補強の遅れが致命傷に 将来の安全へ積極投資を

 日本の高度経済成長のシンボルとも言うべき高速道路や新幹線、さらに地下鉄や建物などが、直下型大地震の直撃により大きく崩壊した。近代的な耐震建造物のこのような大被害は、世界でも初めてで、地震エネルギーのすさまじさに、あらためて驚がくしている。

 現時点での調査結果の重要な教訓の一つは「古い高架橋や建物の耐震補強を、急いで実施しなければならない」ということである。補強より先に地震が来襲すれば、同じ破壊を繰り返すであろうことは、過去の地震被害と、それらを教訓として改正されてきた構造物の耐震設計基準の変遷をたどることにより、疑いのないものとなる。

 一九七〇年以前の構造物の耐震設計は、構造物の重量の二〇%程度を水平方向に作用させ、この地震荷重に対して、構造物の強度だけを保証するものであった。しかしながら、六八年の十勝沖地震や七一年の米カリフォルニア州のサンフェルナンド地震で、鉄筋コンクリートの柱が極めてもろく崩れる「せん断破壊」現象が数多く見られた。

 この原因調査から、構造物の強度を上回る地震力に対しても、崩壊という大被害を防ぐためには「せん断破壊」を絶対に避け、構造物に「ねばり」を持たせなければならないとの結論になった。

 こうしたことから、八〇年代以降の基準では、鉄筋コンクリートの柱の帯鉄筋(おびてっきん)をより多く配置するなど、構造部材および構造系全体としての「ねばり」を増すため、多くの工夫が盛り込まれた。

 今回の地震で大きく崩壊した高速道路や新幹線、さらに建物などを調査したところ、その主な原因は、やはり、鉄筋コンクリートの「せん断破壊」であった。しかも、これらのほとんどは七〇年以前に建設されている。六八年や七一年の教訓がいまだに生かされていないのである。

 では「なぜ補強されていなかったのか?」という疑問が起こる。鉄筋コンクリートの柱の「せん断破壊」を防止するための補強は、近年カリフォルニア州で盛んに行われ、日本でも徐々にだが実施されてきた。崩壊した一本柱の高速道路も近々補強の予定だった。

 補強のぺ-スが遅かった理由としては、日本の構造物の地震に対する強度が米国の二-三倍もあり、これを上回る地震の来襲の確率は、特に関西では低いだろうとの油断があった。

 しかし過去の被害地震の歴史と、今回の都市直下型地震の大被害とを重ね合わせてみるとき、もう一刻の猶予も許されない。

 米国の地震工学者たちは、今回の直下型地震をサンフランシスコやロサンゼルスにおける最悪のシナリオとして受け止めている。日本の首都圏や、その他の都市域にも、避けては通れない課題が突き付けられている。耐震補強を急がなければならない。

 一見ネガティブな投資と思われがちだが、将来の安全性を「担保」するためには、経済的にも十分有効な積極的投資と考えなければならない。

 次の地震との時間の戦いが始まっている。

略歴 家村浩和(いえむら・ひろかず)1945年京都市生まれ。68年京大工学部卒。94年から京大工学部教授。土木工学科で耐震工学講座を担当。阪神大震災では直ちに現地に入り高架橋などを調査した。

1995/2/23
 

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