「独り暮らしの方は手を上げてくれますか」
六月二十二日、神戸市西区の仮設西神第七住宅のテントに約二百人が集まっていた。ボランティア団体「阪神高齢者・障害者支援ネットワーク」の世話人代表で医師の梁勝則さん(39)の呼びかけに、高齢女性たちがおずおずと手を上げた。ざっと半数。「孤独死を防ぐためにも、自治会をつくって、相互扶助で見守っていく必要があると思います」。梁さんの言葉に、参加者たちが大きくうなずいた。
◆
震災直後、学校避難所などで高齢者の衰弱が目立っていた。同ネットワークは二月五日、神戸市長田区の市立長田在宅福祉センターに民間高齢者専用避難所を開き、医師や看護婦らが中心になって、延べ二十六人を世話した。暖房設備を整え、温かい食事を提供、活動は四月まで続いた。
その体験から、梁さんは「平等に避難所の冷たい床に横たわると高齢者が死んだ。市民を平等にすると、結果はひどく不平等になる。高齢者には特別な配慮でサポートすべきという教訓だった」という。
相次いだ「仮設住宅で孤独死」のニュースに接し、西神第七の支援拠点として敷地内に約四十畳分ある「ふれあいテント」を開いた。ボランティアの看護婦、関東の青年グループら約十人が、各地から移って来た高齢者らの訪問を行い、テントでも相談を受けている。「体が不自由な夫がベッドから落ちた」「自殺したい」…。さまざまなSOSが寄せられ、救急車を呼んだこともある。
「仮設住宅で一番危ないのは、とじこもり症候群。餓死、病死、自殺につながる」と梁さん。孤独死など、これ以上の犠牲者を出さないためにも、仮設住宅の住民、行政、NGO、既存の地域が一体とならなくては、と自治会結成の呼びかけになった。
◆
集会後、名乗りを上げた人たちが世話人会をつくり動き出した。自治会は七月二日、正式に発足した。総会では「ごみを決まった日に出して」といったマナーの訴えから、「街灯がない」「床下に水がたまる」など住宅環境への不満なども出された。会長に推された野口守さん(67)は「隣近所で声をかけ合い、死んでから半月も分からへんことがないようにしたい。ボランティアに頼るだけでなく、協力しながら楽しい町にしなくては。お茶会なども開いて、ふれあいを深めたい」と話す。
ボランティアの支援も、すべてを網羅できているわけではない。自治会の取り組み、具体的な対策はこれからだ。各棟に連絡係をつくって回覧なども発行していくことになった。
「二十五年後に、高齢者が人口の四分の一になる超高齢化社会を迎える。今、被災者で高齢者だから仕方がないと片付けたら、二十五年後も同じことになる。これは練習問題です」。梁さんは、仮設住宅に近未来を見る。
1995/7/31