神戸市北区の仮設藤原台第一住宅。隣同士の唐津佐和子さん(64)と森本清子さん(66)は声をそろえた。
「ここ出たら、家賃の安い公営住宅に入れてもらうしかない」
二人とも独り暮らし。兵庫区湊町の同じ木賃アパートに住んでいた。家賃一万三千円のアパートは全壊。唐津さんは勤め先の飲食店が崩壊し、仕事も失った。森本さんは心筋こうそくで無理がきかない。アパートが再建されても同じ家賃では入れないと考え、敷金を受け取って引き払った。
二人が住む仮設住宅棟は十戸。在宅していた四世帯は、だれも戻る家のあてがなかった。老夫婦は土地はあるが、再建のめどがつかない。高齢の母と子は市営住宅が倒壊し、「再入居は約束できない」といわれた。六十歳代の独居女性も借家が全壊した。
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仮設住宅の高齢者たちが低家賃の住宅に移れる見通しはあるのだろうか。神戸市の住宅整備緊急三カ年計画では、新たに恒久住宅として計七万二千戸を建設する。このうち公的住宅は四万五千戸になるが、低所得者層向けは市営、県営住宅など一万数千戸。
市住宅局の小柴善博計画課長は「難しい問題」としながら、解決策の一つに、民間住宅を借り上げて市住の形で経済的弱者に提供し家賃補助もする「特定目的借上公共賃貸住宅制度」をあげた。しかし、市が七月補正予算案に事業費を計上した同制度の三百戸にしても、民間からのアプローチ待ちの状態。公営住宅の家賃も三万円は下らないという。
所得に応じ、公営・公団・公庫融資で住まいを提供してきた住宅政策。京都大学工学部の高田光雄助教授(建築計画)は「公営の絶対数が足りないまま、民間の木賃アパートや文化住宅などで不足を補ってきた。それが震災で倒壊し、潜在化していた公営需要が一気に表面化した」と指摘、新しい家賃補助制度など国の抜本的対策を求める。
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市は被災者を対象にした災害復興住宅(市営住宅)七百三十八戸の募集を先月二十四日に締め切った。平均倍率二十七倍。だが、仮設住宅と避難所からの応募は二五%どまりだった。
唐津さんは応募しなかった。「家移りばっかしやとしんどいし、お金もかかる。周囲はええ人ばかりやし、しばらくおってみようか」。募集要項はぱらぱらっと見ただけだ。家賃を払えるような民間住宅はないだろうと探していない。
「一年ぐらいしたら市営住宅に申し込みたい。新開地の近くがええ。当選するまで申し込むつもり。それまで、ここを追い出されることはないやろう」。何となくそう思っている。
仮設の町で暮らす高齢者たち。その明日はまだ見えない。
(網 麻子)
=おわり=
1995/8/1