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(3)支援 必要な人に届かぬ福祉
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 「震災後、血圧があがったんです。病院が遠くなって、交通費の割引をしてもらえるよう身障者手帳がほしい」

 神戸市西区室谷の工業団地・ハイテクパーク内の仮設住宅。河野恵美子さん(65)は、神戸市西保健所の保健婦北山八千代さん(38)に訴えた。

 恵美子さんはリウマチや緑内障を患っている。夫の玉治さん(73)は脳こうそくの後遺症で体が不自由。恵美子さんは仮設住宅に移ってからも週一回、明石市内の病院に約一時間半かけて通っている。

 病気の変化や近隣との関係、生活ぶりを尋ねながら、北山さんは恵美子さんが使っているベッドに気付いた。「もう少し高さがある方がいいですよ」。手帳の申請方法とともに、体の負担を減らすベッドがもらえるよう手配した。

 「頑張りすぎるとだめになるのも早いから。いつでも言ってくださいね」。帰り際、そう声をかけた。

    ◆

 神戸市西区の仮設住宅は約八千九百戸と市内最大規模。入居者の多くが高齢で、しかも震災による健康状態の悪化、環境の激変もあり、対応が迫られている。区の調べでは、六月三十日現在で調査済み三千二十世帯の約八割が六十五歳以上などの「要援護者あり」世帯だった。約四百二十世帯に保健婦の対応が必要とされた。

 保健や医療、ホームヘルパーなど福祉面のサービスを紹介、助言する保健婦は「福祉ニーズの掘り起こし役」。しかし、同保健所にはわずか九人。もともとニュータウン開発による人口増加で、一人当たりの受け持ち人口は市平均に比べ一・五倍と多かった。そこへ大量の仮設住宅。

 他都市から応援に来ていた四人はすでに六月末で撤退した。市の看護婦二人が応援に来ているが、「要対応」世帯への訪問はなかなか進まない。約五千八百戸が建つ北区の北保健所は、従来の事業を一部中断して訪問活動を続けている。

 福祉関係者は「住民からの申請を待っていてはニーズは上がってこない。特別の対応をとるべきだ」という。しかし市は「看護婦の応援で対応したい。保健婦の相互応援体制をつくる必要はあると思うが、入居状況や要援護者をきっちり把握した上で」とする。

 家事や介護を援助するホームヘルパーも、仮設住宅全体で約二百四十世帯の利用しかない(六月末、こうべ市民福祉振興協会調べ)。制度はあっても、多くが利用の方法すら知らないという。

 高齢者福祉に詳しい斉藤弥生・大阪外国語大学講師は「行政にとって、住民の命を守ることほど緊急の仕事はない。今、何が必要なのかをくみあげなくては。臨時保健婦の採用などできないのか」と指摘する。

 神戸市の保健婦一人当たりの受け持ち人口は約一万二千人。十二政令市で九番目、トップの京都市とでは約三千人の開きがある。専門家の支援の手は、必要な人になかなか届かない。

1995/7/29
 

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