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液状化 対策取れば防げた ばく大なコスト、法的基準もなし
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 阪神大震災は、過去に例のない大規模な液状化現象をもたらした。港湾施設は軒並み被害を受け、多くの住宅が傾いた。各地で大規模な埋め立て開発が進むが、対応は十分なのか。被害に対する責任…。芦屋浜では戸建て住民が傾いた家の補償を求める動きも出ている。都市部の埋め立て地を襲った初の直下型地震は、被災地だけでなく、地震が多発する島国・日本に、湾岸開発と防災の問題を投げかけている。(徳永恭子)

補償の波紋

 芦屋浜では、一戸につき五百万円の補償を要求して住民が署名運動を進めている。芦屋市潮見町に住む女性(58)は「地盤を固めてジャッキアップすれば費用は九百万円を超える。傾いた家に住むのはもう限界。県を信用して安全と思っていたのに」と訴える。

 しかし、兵庫県は「責任はない」とする従来の姿勢を崩していない。都市政策課の山崎靖生課長は「想定を超える地震だったとしかいいようがない。戸建て住宅は個人管理」と主張する。

 潮海一雄甲南大教授(民法・環境法)は、宮城県沖地震(一九七八年)の裁判を例にあげた。地盤の陥没で全壊した建物の所有者が、宅地造成業者などを相手取って損害賠償を訴えたが、「責任は問えない」と退けられた。

 「発生が予測される通常の被害に、備えるべき安全性を欠いたとは認められなかったためだ。今回も追及は難しいが、造成したのは自治体であり、安全性への期待が高い」と話す。

対策の差

 住民が補償を求める根拠は「地盤改良など液状化対策が取られていない」である。実際、芦屋浜の埋め立て地は高層住宅地域を除き地盤改良はされていない。

 同じく液状化が起こったポートアイランドや六甲アイランドでは、振動による締め固めや砂の柱を埋め込むといった地盤改良が行われた地域は、液状化はほとんど起きなかった。

 また、震災時、メリケンパークで建設中だったホテルは、地下十五・十二メートルに固化剤を格子状に埋め込む先進的な地盤改良をしていた結果、周囲の岸壁は大きな被害を受けたものの、無傷だった。

 「液状化は対策さえ取れば被害は防げる」というのが専門家の一致した見方で、震災はそれを実証したともいえる。それだけに、芦屋浜の住民の「なぜ…」の思いは募る。

基準とコスト

 対策の有無は突き詰めると、基準のあいまいさとコストの問題に行き着く。港湾の埋め立ては公有水面埋立法に基づいており、知事の免許の基準に「災害防止への配慮」をあげている。だが、法的拘束力はない。

 道路や橋、港湾施設には液状化に対応した設計基準があり、一般建築物には建築基準法の施行令があるが、地盤には法の規定がないのだ。

 運輸省港湾局管理課は「(液状化対策は)当然なされるべきとの前提に基づいているが、実はその点があいまい」と言う。

 同省港湾技術研究所の稲富隆昌構造部長は「基準づくりの研究は始まったところ。施設の性質によってどこまで被害が許容されるか、社会的な判断も必要」としながら、こう続けた。「地盤改良も高度なものになると費用は一立方メートルあたり一万円になる。公共性のある港でさえ百パーセント万全にできないのに、個人への対応は無理ではないか」

 個人への対応が無理とすれば、そうした土地を宅地として分譲することにも無理はないのだろうか。

 大阪市立大学の三田村宗樹講師(応用地質学)は「土地購入者は景観や利便性だけでなく、性能にも注目すべきだ。ただ、それ以前に埋め立て地の安易な分譲に疑問を抱く」と語った。

 芦屋浜の動きは、埋め立て地で宅地化を進める全国自治体の注目を集める。

1996/5/20
 

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