連載・特集 連載・特集 プレミアムボックス

”元の場所”へ思い強く 公的住宅の一元募集総括
  • 印刷

 家賃低減策など被災地の住宅総合プログラムを受けた第一弾の復興住宅一元募集が終わり、入居が始まった。一万千三百二十五戸の募集に、応募は四万二千八百八十件。郊外で大量の募集割れが出る一方、神戸の既成市街地では競争率百倍を超すところもあるなど、「地元志向」をあらためて見せつけた。「高齢者の落選も多く、気力をなくしはしないかと心配だ」「本当に困っている人をもっと優先できないか」。被災者やボランティアらはそんな懸念を漏らしている。(磯辺康子、加国徹)

当たったけれど

 十月末。神戸市内のトップを切り、同二十三日にかぎ渡しがあった東灘区の市営魚崎南第三住宅で、引っ越しが始まっていた。

 新生活への第一歩。神戸市東灘区の自宅が全壊し、家族四人で家賃約十万円の民間マンションにいた主婦(43)は「仮設の人が優先だから、絶対だめだと思ってた。十万円の家賃はきつかった」と顔をほころばせた。

 仮設住宅には落選し続けた。一元募集では仮設入居者の優先枠が設けられ、結果的に神戸市住は当選者の七三%が仮設住民。主婦には望外の喜びだった。

 神戸市東灘区の仮設住宅に子ども二人と暮らしていた会社員の女性(32)は「子どもの学校も近くなってうれしいけど、周囲はほとんど落選。同じ母子家庭の人には特に申し訳なくて」と、複雑な表情を見せた。

こだわる理由

 神戸などの既成市街地への応募殺到は、予想されてはいた。兵庫県は「市街地への応募は、もともと住んでいた人以外は遠慮してほしい」と異例の呼び掛けをした。だが、今度は末長く住む恒久住宅。被災者のこだわりは強かった。

 神戸市北区の仮設住宅に住む豊田春子さん(68)は、神戸市灘区に応募して落選。「無理とは思いつつ、申し込んだ。灘に戻りたいけど、仮設で最後まで残ったらどうしようとも考える」と不安を口にした。ポートアイランドの仮設住宅に住む鄒双禄さん(60)は「食料品店での仕事は午前五時から。西区や北区からは通勤できない」と、震災前にいた神戸市長田区に申し込み、やはり落選した。

落ち込む高齢者

 募集では仮設住宅優先枠の一方、全戸数の三割で高齢者や障害者世帯が優先された。「優先枠でも落選した世帯が多すぎる」という声も聞いた。

 神戸市北区の仮設住宅に住み、須磨区の高齢者向け公営住宅に落選した児玉美幸さん(85)は「ショックだった。若い人も当選しているのに」。神戸市中央区の地域型仮設住宅で難病の長男と夫婦で暮らす山本孝子さん(60)は「六畳一間に三人。息子の通院などを考えると遠くは無理。自分でくじを引けるなら納得もするけど」と割り切れないようだった。

 神戸市西区の西神第七仮設住宅でボランティアを続ける阪神高齢者・障害者支援ネットワークの黒田裕子さんは「行政は住宅というハード提供だけではなく、ボランティアなどとネットワークを組み、仮設に残される人、恒久住宅に移る人、それぞれをしっかりフォローする体制をつくっていくべきだ」と指摘している。

1996/11/4
 

天気(9月8日)

  • 33℃
  • ---℃
  • 40%

  • 33℃
  • ---℃
  • 50%

  • 34℃
  • ---℃
  • 20%

  • 34℃
  • ---℃
  • 40%

お知らせ