十五日、衆議院議長応接室。正午に始まった議院運営委員会は、永年勤続議員表彰など、この日の本会議日程を決め、十分足らずで終了した。部屋には、議運委理事を務める冬柴鉄三(新進)と大島理森(自民)だけが残った。
「きちんと審議日程に乗せてやり合おう」と迫る冬柴。「まだ重要法案が山ほどある。八千億円もかかる話、限られた会期の中で審議すら無理だ」と切り返す大島。
二人は部屋を出た。歩きながら、なお詰め寄る冬柴に、大島は首を振り「だめ、だめ」と繰り返した。
この日、冬柴は議運委直前の理事会で、前日に新進・民主・太陽の三党が提出した被災者への公的支援法案を説明した。
法案の委員会付託など日程は事実上、非公開の理事会で決める。それには全員一致が必要だ。九人の理事のうち、自民党は大島ら四人。いずれも、審議入りすら拒否反応を示した。
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三野党案だけではない。市民と国会議員が共同で作成した市民立法案にも、自民党は固い姿勢を示す。
背景には、霞が関の意向も反映する。政府の阪神・淡路復興対策本部事務局幹部は話す。「委員会審議で政府答弁を求められれば、財源と個人補償を含む点で、難しいと言うしかない」
連立与党の復興プロジェクトチーム代表幹事・谷洋一(自民)は「復興予算には約五兆円が投じられた。生活再建が困難な人たちには、われわれが懸命に論議し、再建支援金という結果を出した。財政再建が一大テーマの現状で、どうやって何千億も引き出すのか」と語気を強める。
公営住宅の家賃補助に続く生活再建支援金は、四月末から申請が始まった。阪神・淡路大震災復興基金に国が三千億円を積み増して、運用益を自治体が支給する形を取り、「国の個人補償にあたらない」手法を生み出した。
「これで十分とは言わないが、被災者支援は峠を越えた。政権与党として、可能性のない話に貴重な審議日程を割けない」。復興プロメンバーの鴻池祥肇(自民)は、言い切る。
二法案提出を機に、復興プロが会合を持つ予定は、ない。
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自民党議員の中にも、迷いはある。
神戸選出の砂田圭佑の元には、自宅や商店を再建中の支援者から声が届く。「野党案が実現すれば、ずいぶん助かる。先生も協力してほしい」
砂田はそのたび「非現実的な案をあてにするな」と説くが、「法案がつぶれれば、自民のせいと思われる。正直、つらい」と語る。
市民案の賛同者には、三人の自民議員が名を連ねる。その一人、阪上善秀は「党幹部から何度も市民案に乗るなとすごまれた。だが、被災地の実情を考えればきちんと審議し、党議拘束を外して議員個々の判断で採決すべきだ」と訴える。
十六日午前十一時、自民党総務会。党の国会戦術を決める国会対策委員会のトップ、委員長の村岡兼造は報告した。
「野党の被災者支援法案は八千億円を要する話であり、つるしている」
「つるす」とは、議運委で審議日程を決めないことを指す。会期末までつるして審議未了=廃案にする、あるいは野党の顔を立て継続審議にする・。党内では、こんなシナリオが語られている。
(敬称略)
1997/5/23