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(5)再開発ラッシュ 採算懸念し特色探す
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かさむ事業費 住民に危機感
 会場に張り詰めていた空気が一瞬和んだ感じになった。住民は複雑な表情を見せた。

 十三日朝。JR六甲道駅に近い神戸市の再開発事務所。六甲道駅南地区(神戸市灘区)の「桜口5」ブロックに建つ高層再開発ビルの床価格を住民に提示する市の説明会が開かれた。

 価格は、住民が地元に戻り、ビルに入居できるかどうかの目安になる。「桜口5まちづくり協議会」は、価格を下げるよう再三、市に要望。駅前ビルの価格も参考に、住宅で一平方メートルあたり三十四、五万円程度と具体的数字を挙げ、アピールしていた。

 緊張した面持ちの住民に示された標準床価格三十七万八千・三十九万八千円。

 市の倉橋正己事務所長は「現時点でぎりぎりの価格。要望を深く重く受け止めた、うそ偽りない額だ」と強調した。

 説明会はいくつかの質疑だけで終わった。まち協会長の岡田和典さんは「早期の生活再建にはまだ困難な価格だ」と話したが、ある役員は「思ったより安い。転出を見直す住民も出るのでは」と評価した。

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 神戸市内の復興再開発事業は、JR六甲道駅南と新長田駅南(神戸市長田区)で進む。三十階を超す超高層や高層ビルを林立させる大規模プロジェクトだ。六甲道駅南の総事業費は八百九十億円。面積二十ヘクタールと広い新長田駅南は二千七百十億円で、今後ふくらむ可能性もある。

 住民は、土地などを拠出する代わりにビルに入居する権利を得る。しかし、元の資産評価によっては、入居に多額の資金が必要となり、地区に残れない住民が出ることは避けられない。

 「低い価格に」という要望は、他のブロックでも相次いでいる。

 だが、再開発に詳しい神戸大発達科学部の平山洋介助教授(都市計画)はこう指摘する。

 「再開発は地価の上昇を前提としている。床価格を下げれば下げるほど、事業として難しくなる。住宅需要がどれほど高まるかがカギだ」

 再開発ビルは、住民以外に一般分譲する「住居」や「テナント」を確保、その収入も見込んで採算が成り立つ。再開発ビルラッシュの中で、空き室が続出しないかという懸念である。

 「桜口5」ブロックでもビル低層部にフィットネスクラブの誘致を目指しているが、まだめどは立っていない。隣接する「深備5」ブロックでもキー・テナントが決まっていない。

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 今年三月、新長田駅前地区のまちづくり協議会は、「温泉を生かしたまちづくり」を市に提案した。

 集客施設のほか各戸にも給湯、住宅の魅力を高める試みだ。「ほかの駅前と同じような住宅では簡単には売れない」と会長の伊丹一雄さんは話す。

 八月に第一号ビルが着工する南側の久仁塚地区(神戸市長田区)も、地区全体を光ファイバーで結ぶなど情報インフラの統一を要望。住民側も危機感を強めている。

 震災後、被災地ではマンションなど民間住宅建設が進み、すでに過剰気味との指摘がある。六甲道、新長田の再開発事業では計約二千戸の一般分譲住宅が供給される。

 商業施設の立地も郊外型に移りつつある。

 神戸市は「建設コストを下げるなど努力し、テナントは賃貸も検討したい」とする。しかし、再開発ビルの多くはまだ将来の青写真を描き切れていない。

1997/7/21
 

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