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(1)被災マンション 建て替え中心に疑問
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高過ぎた補修見積額
 今はだれも住んでいない兵庫県芦屋市の被災マンション。九階の一室は月に一度、午後七時に明かりがともる。エレベーターは止まり、階段の電気もつかない。参加者は懐中電灯で足元を照らしながら、部屋に向かう。

 「被災地クラブ」と名付けた集まりは、震災一年後の一九九六年一月に始まった。メンバーは、神戸・阪神間にある十一の被災マンションの住民ら約三十人。一人が自室を提供した。

 「建て替えたとして、資金的にどれだけの人が戻れるのか」
 「補修して住める場合はそうしなさい、というのが区分所有法の精神だ」

 メンバーらは、現状を報告し、疑問点を出し合う。閉会は、いつも日付変更線を越えている。

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 メンバーの森川ゆかりさん(40)が暮らす兵庫県西宮市のマンション(約百戸)は、補修工事の真っ最中だ。

 震災の約二カ月後、まだ混乱が続く中で、分譲会社が見積額を示した。補修は一戸当たり千百五十万円。建て替えは千三百・千五百万円。「建て替えて売ればローンを返せる」。そう思った森川さんには、公費解体も魅力だった。意見は建て替えと補修に分かれた。

 だが、マンションが従前の容積率を確保できない既存不適格だと分かった。建て替えれば現在の戸数を確保できない。「もう一度きちんとした調査を」と、第三者機関に調査を依頼したのは、昨年夏だった。

 補修方法は二通り示され、一戸当たり二・三百万円台に下がった。その額が、意見を補修へと集約させた。さらに五社から見積もりを取って決めた補修費は約百八十万円。当初見積額の一六%に過ぎない。

 請け負った業者は、分譲会社の補修見積もりについて「業者には建て替えた方が得、という考えが背景にある」と言う。

 その分譲会社は「新耐震基準に近付けるべく万全の方法を考えた。結果として住民が選択したのは、そこまで万全な内容ではなかったのだろう」と話した。

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 神戸市の被災マンションに住むメンバーは、マンション管理組合を相手に、建て替え決議の無効確認を訴える訴訟の原告だ。

 区分所有法は、五分の四の賛成で成立する「決議」の前提として、「建物の維持、回復に過分の費用を要するに至った時」と定める。この「過分性の判断」を抜きに決議が進められたと主張している。

 鉄骨構造学などが専門の西沢英和京大工学部講師は「被災マンションのほとんどが修復可能。旧耐震基準の建物を新耐震に補強する技術の蓄積もあり、費用もさほど掛からない。なおせる患者を見殺しにした、という印象がある」と言い切る。

 「見殺し」、つまり解体・建て替えを促した要因の一つには、客観的調査と、厳密な費用見積もりがなかったことが指摘される。

 全国マンション管理組合連合会の谷垣千秋事務局長も「建て替えには公費解体や、補助がある半面、補修には支援が乏しい。この際、建て替えてしまおうと判断したケースは多いはず」とみる。

 被災地クラブのメンバーらはこうも話す。「建て替えでは資金的に無理な人がいる。その人たちの居住権はどうなるのか」

 兵庫県によると、百七十二の被災マンションのうち、建て替え方針を決めたのは百七、補修五十五、売却四、方針未定六。建て替えの方針を決めながら、解体同意が得られないことなどから、動きが止まったままのマンションもある。

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 阪神大震災から間もなく二年半。仮設住宅から恒久住宅への移行はようやくピッチを速め始めた。しかし、課題を抱えたまま足踏みをする被災者はまだ多い。住宅、仕事、教育、そして生活。「復興へ16部」は三度目の夏を迎えた被災者の姿を追った。

1997/7/15
 

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