■環境変化がストレスに
取材した日、ふれあいセンターでは、毎月の誕生日会が開かれていた。
約二百七十世帯が住む神戸市中央区のポートアイランド第一仮設住宅。自治会長の岡持幸義さん(58)は、祝いの輪に入りながらも、ふっと顔を曇らせた。「二十日に一人。多すぎますわ」
同仮設では、昨年暮れから約半年の間に八人が亡くなった。「孤独死」こそない。が、元気そうに見えた人が次々に倒れていく。誕生日会を目前に、亡くなった五十代の女性もいた。
「以前は三、四カ月に一人くらいじゃなかったかな」。岡持さんには、ペースの速さが気がかりだ。
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小椋信子さん(75)は、昨冬のクリスマスイブに、夫を亡くした。八十一歳だった。
足は悪かったが、体調に問題はなかった。カラオケが好きで、ふれあいセンターにもよく顔を見せた。亡くなる数日前、「クリスマスにカラオケするから、おいでね」と自治会役員が電話をすると、「楽しみやなあ」と喜んだ。
急変したのはイブの朝。「胸がしんどい」と訴え、「診療所に行こう」と誘う信子さんの手を、ちぎれるほど引っ張った。往診を頼んだが、痛み止めの薬も吐いた。救急車で市民病院に向かう途中、亡くなった。
信子さんにも自治会役員にも、あまりにも突然だった。
震災の年の四月に入居して約二年。ストレスは少しずつ積み重なった。信子さんは目の手術をし、横断歩道で転んでけがもした。
夫は耳の遠い信子さんの通院に付き添い、買い物も引き受けた。港湾貨物のトラックが激しく行き交う人工島の道路、体調の不安、慣れない病院通い…。高齢の二人には負担になった。
子どもはない。前回の公営住宅募集は、夫の死去で、申し込む余裕はなかった。今は、毎日電話で様子を気遣うめいの近くに住むことだけを望んでいる。
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兵庫県警の調べでは、仮設住宅での孤独死は計百六十三人。その周辺に多くの死がある。
仮設での高齢化率は高い。だが、ポーアイ第一仮設でこの半年、亡くなった高齢者はやはり多い。
避難所などでの関連死を追跡してきた神戸協同病院の上田耕蔵院長は「生きがいがあれば、ストレスも乗り越えられるが、仮設では『あしたもがんばって生きよう』という気持ちをなくしてしまっていることが大きい」と指摘する。
今年三月、兵庫県が被災世帯の健康調査をまとめた。仮設住宅約五千三百人のうち、「病気がある」が六割。体調では、肩がこる、疲れやすいなどすべての項目で震災前を上回った。精神面でも半数以上が「問題あり」。一般の数値と比べ三倍にのぼった。
「恒久住宅への転居が進めば、仮設に残る人の不安は増し、健康問題が深刻になる」と県担当者。保健婦らの巡回も限られ、効果的な対策は見いだせない。
ポーアイ第一仮設の入居は全戸の七割を切り、時々、県外仮設などから、新たな入居がある。
高齢者らの世話をする自治会副会長の佐藤良子さん(56)は「杖(つえ)をつき始めたり、痴ほうの症状が出始めたり、高齢者がだんだん弱っていくのが分かる」という。
「新たな入居者の連絡も、役所からあるわけではない。健康を気遣い合うにも限界がある」と岡持さん。
痛手を癒(いや)す間もなく、変化の波が押し寄せる。
1997/7/16