■手探り続ける復興担当教員
被災地の小学校。半分を間仕切った教室で、二人の児童が、男性教諭と小さなテーブルを囲んで、授業を受けている。
パソコンで、海と魚、鳥、船の絵を描いていたある日、男の子が突然言った。
「先生、どれがいい? ぼく、鳥がいいな。地震があっても飛んでいけるから」。男の子は時々、思い出したように、「地震」を口にする。教諭は、どきっとするが、さらりと流す。
児童は二人とも自宅が全壊した。避難生活を体験、仮設住宅などを経て、マンションに住む。共に二年ほど前、被害が比較的少なかった今の学校に転校してきた。
登校しない日があった。学校に来ても、教室に入りたがらなかった。廊下や運動場に座り込んだり、駆け回ったりした。保健室に来るようになり、今年春、教室に足を運び始めた。
最近、本来のクラス担任と話せるようになった。六月末、入学以来、初めてプールに入った。
教諭は、心のケアなどのため、教育復興担当教員として、各学校に加配された一人だ。
「できることが少しずつ増えている。今は国語や算数など全教科を教えている。二人にとって震災の影響がどの程度かは分からない。でも、今も手立てを必要としている現実は、しっかり受け止めたい」と話す。
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神戸市で五月、復興担当教員の研修会が開かれた。
「震災をきっかけに子どもが不登校になったまま」「トイレのドアを閉められない子がいる」など、現状が報告された。だが、問題の見えにくさも指摘された。どこまでが震災の影響か、ケアをどうすればいいのか。だれもが戸惑いと悩みを抱えていた。
「ガラスなど器物損壊が増えている。でも、震災の影響かどうか分からない」と淡路の中学教諭。別の教諭は「学校によって状況は違う。子どもの様子は変わっていく。だから、常に手探り」と話す。
県教委は「震災による心の健康について教育的配慮を要する児童生徒」を、継続調査している。県内全域の公立小・中学校千百九十一校が対象で、その人数は今年五月現在、五千五百十七人。昨年七月より千六百九十五人増えている。
「教育的配慮を要する」に定義はない。県教委の指導資料に基づき、各校が独自に判断する。症状は、頭痛、不眠、退行現象(赤ちゃん返り)、不登校などという。
増加の結果について、県教委担当者は「教師の目が養われ、子どもに目が行き届くようになったことも考えられる。震災三、四年後にトラウマ(心的外傷)が最もひどくなると指摘した専門家もいる。詳しく分析したい」とする。
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神戸市の仮設住宅の男子中学生は、一時間弱かけ、震災前の校区の学校に通っている。卒業まで、あと一年半、頑張るつもりだ。
「壊れた家の跡とか見たら、地震に負けたらあかんと思うねん」と気丈に話しながら、「三連休はきらいや」と口にする。九五年一月十七日。震災は、土曜休日と成人の日、振替休日と三連休の翌日だった。
仮設住宅に住む子どもや校区外通学の数は次第に減っている。しかし、子どもたちの心は、短い期間では計れない。
現在、復興担当教員は神戸、阪神間、淡路の小中学校などに計二百七人。子どもと直面する教諭から「来年春以降、態勢が維持されるか」と、懸念する声が上がる。
1997/7/20