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(6)市民力 「防災」軸に地域見直す
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 三重県鈴鹿市の「ケーブルネット鈴鹿」社長、阿部好一さんのもとを三人の青年が訪れたのは、震災から二週間後のことだった。

 「じっとしていられない。チャリティーコンサートを開き、義援金を集めたいので協力してほしい」

 被災地のために何ができるか。阿部さんを囲み、有志の輪が次第に大きくなっていった。ボランティアとして被災地へ足を運び、三重に避難してきた被災者と触れ合う中から、一つの共通認識が生まれた。

 「被災者は避難先や仮設住宅で、元の町に帰りたいと願っている。もっと自分たちの足元を見て、今住む町のことを考えよう」

 鈴鹿、伊賀上野、松坂…。メンバーがそれぞれの町に戻ってボランティア組織を立ち上げ、県内をネットワークで結んだ。

 「三重は四十年前に伊勢湾台風という災害を経験した。なのに、教訓は全く残らず、災害は過去の記憶となった。神戸のがれきに覆われた町の姿、被災したお年寄りのうつろな表情が、私たちをつき動かした」と、阿部さんはいう。

 まずメンバーが取り組んだのは、防災マップづくり。実際に地域を歩き、住民の“情報”を集めて地図に書き入れた。避難所、病院はもちろん、独居老人、小さな子どもを抱える世帯。平面的な地図の上に、地域の実情が浮かび上がった。

 このマップが次の展開を生んだ。「DIG」と呼ばれる災害図上訓練である。

 阿部さんらが主催したワークショップに参加した三重県消防防災課(当時)の平野昌さん、防衛庁防衛研究所(当時)の小村隆史さんが、それぞれの知恵と情報を持ち寄り、自衛隊の指揮所演習を模した図上訓練を始めた。「一言で言えば、地図を囲んでの作戦会議のまね事です」という。

 災害発生。さあ、どう動くか。避難所はどこか。安全なルートは。住民の中で避難が困難な人はいないか。けが人搬送、遺体収容、炊き出し、救援物資。さまざまな状況を想定することで、災害を理解し、地域の弱さや防災力を確認する。

 DIGは、ボランティア仲間によって三重県内だけでなく、東京都など各地に広がった。

 行政マンながら、ボランティアの一人でもある平野さんは、防災とイベントを結びつける。

 「イベントは平時の非日常。例えば、トイレが足りなかったり、迷子が出たりする。予期せぬ事態への対応が求められ、災害時に必要とされる『仕切り』のセンスが養われる」。イベント支援のボランティアを呼び掛けると、県内から約三百三十人が応じた。

 企業経営者、行政マン、主婦、教員、大工…。それぞれの職能や知識、経験を地域に生かせないか。

 ボランティアという範疇(はんちゅう)に納まらないこの新しい姿を、平野さんは「率先市民」と名付けた。昨年十二月のサミットには、大学や研究所の防災専門家、ボランティア団体の代表らも一人の“率先市民”として参加し、防災を中心に意見を交えた。

 今、阿部さんは語る。

 「地域の“市民力”を高める。そんな社会が見えてきた。足元の防災をみつめていたら、ここまできた。すべて震災から始まった」

    ◆

 災害は社会の姿を浮かび上がらせるという。阪神大震災の後、災害を予知し建築物の耐震を高めるだけでなく、発生時にいかに被害を軽減させるかという視点から、防災に取り組む動きが広がった。その核となるのは一人一人の住民の結び付きだ。静岡や三重など防災先進県は、行政の限界を認め「災害後三日間は自分たちで生き抜いてほしい」と、こうした動きを後押ししている。

2000/1/9
 

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