連載・特集 連載・特集 プレミアムボックス

(3)都心回帰 取り戻せるか人間のまち
  • 印刷

 住まいは、郊外ばかりに求めていいのか。空洞化が進む市街地をどう再生するのか。これからの都市が抱える大きな問題といえる。その一つの答えが、復興事業が進む神戸市内にある。

 臨海部の東部新都心(HAT神戸)、脇の浜地区。復興住宅群の南側で、民間分譲マンション「神戸海岸通ハーバーフラッツ」の建設工事が進んでいる。

 川崎製鉄の工場跡地を利用し、民間四社が二〇〇四年までに計千百戸余りの集合住宅を建てる。三宮から一・五キロ圏。徒歩二十分。都心の真ん中に誕生するニュータウンだ。「歩いて暮らせるまち」。国や自治体がそろって掲げる新時代のまちづくりにも合致する。

 戦後の日本経済を支えてきた神戸の臨海工業地帯。産業の構造変化に伴い、川鉄や神戸製鋼など、七十四ヘクタールの工場跡地が遊休地になった。整備計画は十年以上も前から、兵庫県、神戸市、地権者の間で検討されていた。だが、不況の影響などで方向性が定まらないまま、震災に遭遇。都市での暮らし方を再考する過程で、この計画が浮上した。

 全体の三割強を緑地が占め、海沿いに幅三十メートルの歩道。一戸平均約八十平方メートル。従来の片廊下式でなく、戸建て感覚の造り。介護支援やバリアフリーも整うまちに、第一期分が即日完売するほどの人気を見せた。

 「都心の住宅地が永住の場として評価された。神戸には、こうした需要にこたえる器がなかった」。川崎製鉄都市開発部の分析だ。

 東京・佃の造船工場跡地に建つ高層住宅群「大川端リバーシティ21」でも、同じような再開発が進む。都市基盤整備公団が都や民間と共同で東京駅から二キロ圏内に、分譲、賃貸合わせ約四千戸の住宅を建てた。ここも緑地が多く、都心の中での暮らしに重点を置く。

 都心にいながらにして、自然環境をとりいれた生活ができる。いずれも人気の背景は、そこにある。

 二十世紀。人々が暮らすまちづくりの主眼は「都心」ではなく、むしろ「郊外」へと向けられた。「庭付き一戸建て」の願望は今も根強く、さらに進むとの見方もある。しかし、郊外への無秩序な拡大をやめ、環境との共生を図らない限り、都市の持続的な発展は難しいとされる。来世紀が「都心回帰の時代」といわれるゆえんである。

 その先取りともいえる大阪ガスの実験集合住宅が大阪市内にある。「NEXT21」と呼ばれる住宅は「市街地における“共生環境”の創出および環境負荷の低減」などをテーマに、九四年から五年間、社員を住まわせ、実験を行ってきた。

 被災地でも今、注目を集める建物の骨組みと住戸を分離して建てる「スケルトン・インフィル」構造を採用し、省エネ、建物の緑化、棟内通路の開放を進めた。昨年秋の報告では、省エネ効果に加え、約二十種類の野鳥の飛来や自生植物を観測した。興味深いのは、入居者が環境やコミュニティーの大切さに目を向け始めた意識の変化だった。

 都心に快適なまちが出来るかどうかは、そこに住む人の価値観にかかわってくる。集合住宅ゆえのコミュニティーづくりへの協力、譲り合い、助け合う心。突き詰めれば、この先もクルマ重視の生活を続けるのかどうかまで問われてくる。

 「都心居住の促進は、暮らし方や職業を含めた人々の価値観が今後どう変わるかにかかっている」。小浦久子・大阪大大学院助教授(都市計画)も指摘する。

    ◆

 震災は、特に旧市街地に大きな被害をもたらした。空洞化が加速する都市で、人が安全に安心して暮らす「人間のまち」の発想が欠けていたことが浮き彫りになった。震災を教訓に、神戸市は人口減少が著しい市街地を中心に、歩ける範囲で生活できる「コンパクトシティ」構想を打ち出した。構想通りに、まちの姿を再構築できるのか。

2000/1/6
 

天気(9月8日)

  • 33℃
  • ---℃
  • 40%

  • 33℃
  • ---℃
  • 50%

  • 34℃
  • ---℃
  • 20%

  • 34℃
  • ---℃
  • 40%

お知らせ