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(2)快適さとは 問いかける新しいむら
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 便利さ、快適さ。現代の生活意識、ライフスタイルを問い直す試みが、近く兵庫県内で始まる。

 舞台は、三木市南東部に広がる約五ヘクタールの森。周囲の環境を最大限に生かし、二百人程度の住民と、情報通信関係など十社の企業が入る新しい「むら」を建設するプランだ。

 目指すのは、便利さと省エネなどにつながる「職・住近接」だけではない。私たちの生き方、住まい方、共生の在り方を、住民も企業も一緒になって考え、実践する場づくりである。

 基本構想は、昨年暮れにできた。中心になって進めるのは、神戸市西区でパソコン周辺機器会社を経営する矢野孝一さん(41)だ。

 戦後最悪の不況に見舞われた一九九〇年代。失速する産業経済の中で、成長株のコンピューター、マルチメディア業界では無数の企業が生まれた。だが、現れては消えていく。その繰り返しに、矢野さんも必然的に価値観の転換を迫られた。

 「店頭公開や株式上場だけが、企業の成功の証(あかし)ではないのかもしれない」。違和感を覚え始めた矢先、転機が訪れた。

 震災だった。

 スイッチ一つで、エネルギーが供給される都市の生活は、実は浪費と表裏一体ではないか。欲しいものは、スーパーやコンビニで何でもそろう。駅も近い。何不自由なかった暮らしが、震災で機能不全をきたし、疑問が一気に深まった。

 私たちの体に染みついた便利さ、快適さとのバランスを、どう取ればいいのか。むらづくりの発想は、そこから生まれた。

 例えば、水を挙げる。一日の生活に必要な水量は、一人当たり二百二十リットル。こまめに水を止め、ふろの残り湯を洗濯に使ったりすると、三分の二が減らせる。上下水道だけに頼らず、井戸水も利用し、生活廃水は浄化槽を通して土壌浸透させる。住まいには、陽光をふんだんに取り入れ、部屋を小さくして空調効率を上げる。むらに設ける風車や水車は補助電力としても活用し、災害時に使う。

 立地する企業も、同様だ。倫理観を持つ企業を誘致し、浪費社会からの脱皮を目指してもらう。

 さらに、畑を耕したり、環境維持に協力した労働には、むらの通貨「エコ」が支給される。協力できない人は、「エコ」を支払う。最低限の生活物資の自給を目指し、「エコ」を通して交換する。運営するのは、住民組織。暮らし方、住まい方を優先させ、それに道路、建物などハード面を合わせていく方法だ。

 特に新しいものはない。注目すべきは、震災の教訓が、結果的に構想の根幹をなしていることだ。

 構想メンバーの一人に、国連地域開発センター防災計画兵庫事務所長の小林正美氏がいる。

 「リスクを背負った都市で、どう生きていくのか。防災は、環境や福祉など社会が抱える問題を同じように解決してこそ効果がある。それには、個人の意識の確立が欠かせない。実現する生活の場と、情報発信の基地をつくりたい」

 矢野さんも「成否のカギは、集まる人々の意識で決まる」と期待する。

 むらは、永続的、農的暮らしの意味から「パーマカルチャービレッジ」(仮称)と呼ばれる。開村は、二〇〇三年の予定。入村募集は今年始まる。

    ◆

 阪神・淡路大震災は、世界の自然災害史を塗り替える多額の被害をもたらした。被害は複合的に絡み合い、高齢化社会の都市のもろさを浮き彫りにした。震災後、道路や港などインフラの耐震性は高まり、自治体の危機管理システムや防災マニュアルの見直しが進んだ。しかし、リスクと向き合いながら共に生きる防災文化は育ったのだろうか。

2000/1/4
 

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