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阪神・淡路大震災をはじめ、全国の被災者の切実な声が改正に結びついた被災者生活再建支援法。衆院本会議で可決、成立した九日、被災自治体からは歓迎の声が相次いだ。多くの被災自治体は、住宅建設費を支給対象外としていた同法の不備を補うため、独自の支援制度を創設し、その動きも法改正につながった。ただ今回の改正を受け、各自治体は独自制度の見直しを迫られる。兵庫県は、国の制度が改善されたことを受け、暫定的に設けていた支援制度については廃止する方針だ。
「全国知事会などが連携し、制度発足以来一貫して訴えてきた住宅本体の建築、補修費などへの充当が可能となり、関係者の努力が結実した」
兵庫県の井戸敏三知事は法の成立を受け、喜びのコメントを発表した。
同県は法改正の必要性を国に訴え、二〇〇四年の台風災害では支援法の「補完制度」を創設。同法の年齢・年収要件を大幅に緩和し、住宅の建設・補修費も支援対象に含めた。今年九月末現在、約千四百世帯に十一億円余りを支給している。
国の制度改正を後押ししたのが、こうした地方の取り組みだ。鳥取県西部地震に見舞われた同県は〇一年、住宅再建に最高三百万円を支給する「被災者住宅再建支援条例」を創設。その後の地震や台風災害で、各自治体が次々に独自の支援制度を設けた。
神戸大名誉教授の室崎益輝・総務省消防庁消防研究センター所長は「改正法を実現させたのは、全国の被災地からの切実な声」と指摘する。
一方、支援法改正で、各自治体は独自制度の見直しに追われる。
改正法が適用される新潟県中越沖地震、能登半島地震(石川県)の被災地。両県とも住宅建設費に使える独自制度を設けているが、年齢や収入で支給額に差をつけており、改正法の要件撤廃を受けて見直しが必要になりそうだ。
新潟、石川県とも対応策は未定だが、石川県輪島市は「独自制度も対象を広げる必要があるのではないか」とする。
兵庫県は、国に要望してきた住宅建設・補修費への支援などが改正法に盛り込まれたことから、独自の補完制度は廃止する方針だ。
鳥取県も条例の見直しを始めた。住宅再建支援のため、県と市町村で拠出する基金は現在十四億円あるが、同県住宅政策課は「制度廃止も含め、市町村と今後の方針を検討したい」という。
支援法の年齢・年収要件が撤廃されたことを受け、国レベルでも関連法の改正が課題になる。
災害救助法には、五十万円までの住宅修理費を公費で負担する制度があるが、適用には年齢・年収制限がある。厚生労働省災害救助・救援対策室は「生活再建支援法の年収要件を撤廃する話は、法改正直前に出た。災害救助法をどうするか、検討中だ」とした。
メモ
改正被災者生活再建支援法
自然災害の被災世帯に最高三百万円を支給する。住宅の全壊世帯に百万円、大規模半壊世帯に五十万円を支給したうえで、住宅再建の方法に応じて▽建設・購入に二百万円▽補修に百万円▽賃貸入居に五十万円を出す。使途の制限はなく、年齢・年収の条件もない。今年発生した能登半島地震、新潟県中越沖地震など四災害にも適用される。半壊は対象外。
現行法は、支給上限額を同じ三百万円としているが、使途は生活必需品の購入や住宅の解体費などに限られ、住宅の建設・補修費は対象外。年齢・年収の制限もある。
メモ
被災者生活再建支援法改正の経過
07・29 参院選で民主党が第一党に
08・08 民主党「次の内閣」会合で、支給限度額を500万円に引き上げる改正案を了承
09・05 公明党災害対策法制プロジェクトチームが、最大300万円の定額支給を柱とする改正案の検討開始
09・19 与党プロジェクトチームが公明案で合意
09・27 民主が参院に改正案提出
10・12 自民、公明が衆院に与党案を提出
10・31 参院災害対策特別委員会で民主案審議入り
11・01 衆院災害対策特別委員会で与党案審議入り
11・06 与党、民主党が一本化で合意
11・08 自民、民主、公明3党が参院に共同提案。参院特別委で可決
11・09 衆参本会議で可決、成立