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(5)橋頭堡 支援法10年、見えた課題
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指定席 「次回はリレートークをやろう」と提案されたシンポ。前列左には小田実の席も用意された=芦屋市船戸町、山村サロン
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指定席 「次回はリレートークをやろう」と提案されたシンポ。前列左には小田実の席も用意された=芦屋市船戸町、山村サロン

指定席 「次回はリレートークをやろう」と提案されたシンポ。前列左には小田実の席も用意された=芦屋市船戸町、山村サロン

指定席 「次回はリレートークをやろう」と提案されたシンポ。前列左には小田実の席も用意された=芦屋市船戸町、山村サロン

 「復興基本法」-。新潟県知事泉田裕彦(45)は「新法」を提起した。

 西宮市の関西学院大で十四日に開かれた「日本災害復興学会」の発足記念シンポジウム。泉田は「日本には道路や建物を復旧させる法律はあるが、破壊された地域社会を回復する仕組みがない」と指摘し、こう続けた。「全体を包括する法律の制定が必要だ」

 昨年七月の新潟県中越沖地震に対し、被災者生活再建支援法が遡及適用(そきゅうてきよう)されたことにも言及した。「(要件も緩和されて)良かったが、この法律からもこぼれ落ちる被災者がいる」

 支援法は、小田実らの「市民立法」の運動をへて一九九八年五月に成立。昨年十一月に二度目の改正が行われ、住宅本体の建設費に充てることが可能になり、年齢や所得要件も撤廃された。

 隣で兵庫県知事井戸敏三(62)は「県が進める住宅再建共済制度と合わせ、生活再建を支える仕組みがようやく整った」。その上で「十二年もかかったが…」と振り返った。

    ◆

97年12月

 「市民立法」案をたたき台にし、参院に上程された災害被災者等支援法案は実質審議に入れない。巨額の財源に難色を示す自民による「つるし」。小田らは、参院自民の幹事長村上正邦に直接掛け合う。仲介した兵庫県選出の参院議員本岡昭次(民改連)は、村上の豹変(ひょうへん)に驚く。その場で執行部に電話し、「審議にかけろ」。「世論の空気を読んだのか」と本岡。市民立法は土壇場で廃案を免れる。

 年明けの通常国会。夏の参院選を控え、世論の動向を見た自民が対案を用意する。最高額は百万円。結局、自民案を軸に与野党間で非公式協議が進められる。

 四月の夜。本岡は、議員宿舎を訪れた小田らに苦渋の表情で切り出す。「市民立法の五百万よりはるかに低い額。しかし、妥協せざるを得ん」「阪神・淡路への遡及はない。すまん。付帯決議は付けるが」

 五秒か、それ以上か-。小田は表情を変えず、つぶやいた。「しゃあないな」

 「日本の政治に穴を開けた。橋頭堡(きょうとうほ)からいかに大きくしていくか」と小田は繰り返す。法案を考えた弁護士伊賀興一(59)も同じ。「作れば必ず育つ法律だ」

 支援法を「進化」させていくべきだ-。会場から芦屋市朝日ケ丘町の会社員松本幸子(53)が被災者の立場から声を上げた。

 「(現行三百万円の)支給額を上げていくだけでなく、次の世代のために『住む権利』を確保する運動を続ける必要がある」

 知事らが登壇したほぼ同時刻。芦屋市の山村サロンでも被災者支援をめぐるシンポが開かれた。出席者と向き合う前列には、小田用にいすが一脚置かれる。

 ここでも支援法の行方が焦点になった。席上、伊賀は新潟県知事と同じ見解を示す。「あるべき災害の基本法は何なのかを考えていくことこそ、被災地の義務ではないか」

 さらに出席者に問いかけた。「支援法も再改正で経済的要件が取っ払われた。きょうを最後の集会とするのか、それとも被災地の課題が何なのかを引き続き議論していくのか」-。声が飛んだ。「続けよう」。全員が大きくうなずいた。

 その場で、次回の日程が決められる。四月五日、同じ山村サロン。「具体的な提案をしてほしい」。早速、宿題が出された。(敬称略)

2008/1/16
 

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