正月明け。能登半島地震に見舞われた石川県輪島市門前町の無職、浦口義夫さん(60)は被災者生活再建支援金の受給を申請した。「すぅー」と気持ちが明るくなった。
浦口さんの自宅は全壊だったが当初、被災者生活再建支援法に基づく支援金は「もらえない」と聞かされた。前々年の収入などが適用要件を超えていたからだ。
が、昨年十一月、法が改正された。全壊と大規模半壊世帯に最高三百万円を支給。懸案だった住宅本体の建設や修理への使用が事実上、認められた上、年齢・収入要件も撤廃され、中間所得層が救われることになった。能登半島地震などに、さかのぼって適用されることも決まった。
二百万円を受給したら、住宅修理に使うという浦口さんは「頑張ろう、という気になった」と、顔をほころばせる。
輪島市では法改正後、災害復興公営住宅の入居申し込みのキャンセルが相次ぎ、入居世帯は当初の七十八件から四十三件に減った。「法改正で、被災者が住宅を自力再建する意欲を持てたのではないか」と同市の谷口寛総務部長はみる。
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阪神・淡路大震災を機に一九九八年に生まれた被災者生活再建支援法。「個人資産の形成に公金は使えない」とする国の論理に抗し、被災者や研究者、行政関係者らが運動を続けた。
二〇〇四年の改正で従来の「生活関係経費」(最高百万円)に加え、「居住関係経費」(最高二百万円)も支給されるようになったが、これは住宅の解体・撤去などにしか使えなかった。「使い勝手が悪い」との批判が消えなかった。
その支援金が住宅本体の建設に使えるようになったことで、藤原雅人・兵庫県復興局長は「住み慣れた場所に家を再建できれば地域全体の復興につながる」と評価する。
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しかし、課題も残った。支給限度額の三百万円は、十分な額といえるのか。受給できる大規模半壊と、受給できない半壊以下では、援助に格差も生まれた。
新潟県中越沖地震の被災地、柏崎市の復興支援室担当者は「半壊世帯でも修理に多額の費用がかかる。制度を拡充し、半壊や一部損壊に支援を広げて」と訴える。
支援の可否を左右する住宅の被害判定も重要になる。「市民の立場で、科学的に判定する仕組みが必要」と説くのは室崎益輝・神戸大名誉教授。内閣府も迅速で公平な被害認定を目指し、有識者の検討会を発足させた。
さらに今、指摘されるのが、災害をめぐるほかの法律との整合性だ。例えば、災害救助法には半壊世帯にも最高五十万円を支援する住宅修理費の公費負担制度があるが、収入や年齢の制限が残る。「支援法、災害救助法、災害弔意金法を再編した復興基本法の制定が必要だ」と兵庫県震災復興研究センターの出口俊一事務局長は力を込める。
改正法には「施行四年後をめどに見直す」との付帯決議が付いており、課題克服へ模索は続く。
十三年前の阪神・淡路大震災で、地震の活動期に入ったとされる日本列島。どこまで被害を減らすことができるか。備えのあり方も問われ続ける。
(森本尚樹、森 信弘)
=おわり=
2008/1/17