冬の日。阪神石屋川駅を出て、線路の高架沿いを東へ歩く。住宅街の一角。鉄工所の壁に、大きな観音像が描かれている。素朴なタッチが目を引く。
この鉄工所を営む田中稔さん(85)が描いた。震災で犠牲になった近所の女子中学生を慰霊するためだった。地震から1年後の1996年1月、屋上から命綱1本でぶら下がり、2日間で完成させたそうだ。
慰霊碑などを紹介した「震災モニュメントマップ」にも掲載され、多くの市民が訪れるようになった。
そばには「復興祈願」の文字。眺めながら、このまちが歩んできた15年を思う。
被災地では、たくさんの祈りがささげられてきた。亡くなった人をしのび、まちと暮らしの復興を願って。
色は薄くなったが、壁画にこめられた思いは色あせはしない。(斎藤雅志)
2010/1/28