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(1)自宅の再建 また借金 踏ん切りつかず
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雪に覆われる仮設住宅団地。今冬は氷点下10度を下回る日もあった=宮城県亘理町(撮影・斎藤雅志)
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雪に覆われる仮設住宅団地。今冬は氷点下10度を下回る日もあった=宮城県亘理町(撮影・斎藤雅志)

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雪に覆われる仮設住宅団地。今冬は氷点下10度を下回る日もあった=宮城県亘理町(撮影・斎藤雅志)

雪に覆われる仮設住宅団地。今冬は氷点下10度を下回る日もあった=宮城県亘理町(撮影・斎藤雅志)

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 東日本大震災は、発生からもう1年になる。

 この冬、東北の沿岸部は地元の人も驚く寒さと大雪に見舞われた。「津波に大雪…。地球がおかしくなったんでねえか」。人々は恨み言を言いながら、仮の住まいで雪かきに追われていた。

 被災地には約5万3千戸の仮設住宅が立つ。解消に5年かかった阪神・淡路大震災より約5千戸多い。いつ出られるのか。住宅再建の資金、土地をどうするか。更地が広がる風景の中で、入居者は日々、不安と焦りに駆られている。

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 「先立つもんがなけりゃ、家は建てられない。毎日、仕事仲間と『おめえはどうすんだ』って話ばかりしてる」。平間勝彦さん(57)は、苦笑まじりに話した。

 イチゴの産地として知られる宮城県亘理(わたり)町。農家の平間さんは町最大の「公共ゾーン仮設住宅」(558戸)に妻と父の3人で暮らしている。2DKの間取りは少し狭い。

 15年前に建てた自宅は津波で失った。ビニールハウスも農機具も流され、今はがれきの片付け仕事などで生活をつなぐ。住宅ローンは地震保険で支払えたが、もうすぐ還暦という身で、再び借金をして家を建て直すことへの不安は大きい。

 住んでいた集落は津波の危険性が高い「移転促進地域」とされ、内陸や高台に移る話が持ち上がる。元の土地は町が買い取る約束だが、試算では500万円ほどにしかならない。移転先は1千万円はするという。「それだけで500万円の赤字。しかも元の半分の広さで、です」

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 プレハブ住宅のひさしから、つららが垂れていた。風呂には追いだき機能がなく、シャワーで我慢する家族もいる。

 「寒いから光熱費は震災前の倍」と大條(おおえだ)文子さん(69)は嘆いた。畑は流され、野菜は店で買うようになった。義援金には手をつけず、生活を切り詰める。自宅は再建したいが、費用を考えると決心できない。

 「老後のお金を使ってしまっていいものか。いつ病気になるか分からないし」。時間がたつにつれ、公営住宅への入居を望む高齢者が増えている。

 阪神・淡路大震災後に成立した被災者生活再建支援法は、全壊世帯に最大300万円を支給する。「ありがたい」との声の一方で、生活の糧を失った人たちからは「もう少しあれば」との訴えも聞かれた。

 「個々の暮らしが戻らないと、町にも元気は出ない。住宅や仕事にもっと支援があれば」。農家の平間さんの叫びは、17年前の兵庫の被災者の思いと重なる。「神戸も復興したと思っていたけど、まだ苦しんでいる人がいるんだろなって、今になって分かる」(岸本達也)

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 復興への道のりは、思った以上に厳しい。阪神・淡路から17年の経験は、どう生きるのか。被災から1年の東北を歩いた。

住宅着工前年割れ 土地利用見通せず 阪神・淡路より鈍く

 東日本大震災で被災した岩手、宮城、福島3県の昨年4~12月の新設住宅着工戸数が、前年同期を約6%下回っていることが分かった。通常、災害後は住宅再建需要が伸び、阪神・淡路大震災を同じ期間で比べた場合、着工戸数は前年の1・6倍だった。阪神・淡路以降、住宅の再建支援制度が拡充されたものの、東日本では原発事故や津波被害を受けた土地の利用計画が見通せず、住宅再建に踏み切れない現状がうかがえる。

 東日本の被災3県によると、震災発生翌月の昨年4月から12月までの9カ月間の新設住宅着工戸数は2万122戸で、前年同期(2万1460戸)より1338戸減少。宮城県で前年をやや上回ったが、岩手県と福島県が落ち込んだ。

 一方、阪神・淡路大震災で被災した兵庫県内12市の発生翌月から9カ月間の着工戸数は5万6305戸で、前年同期(3万5101戸)の1・6倍。1年間では1・8倍に伸びた。

 東日本大震災では、津波で浸水した集落を高台に移転する計画が進むなど、阪神・淡路に比べて土地利用が大規模に制限される見込み。加えて、福島第1原発事故で他市町に逃れた被災者が多数いるなど、住宅再建の動きが滞っている。

 住宅再建の支援制度をめぐっては、阪神・淡路の場合、国が個人補償を認めなかった。特に、住宅ローンを抱えたまま、再建のために新たな借金をする「二重ローン」が問題となった。

 以後、公的支援を求める声は高まり、1998年に被災者生活再建支援法が成立。2度の改正を経て、全壊世帯に最大300万円が支払われるようになった。さらに、自治体独自の上乗せ支給も広がり、東日本大震災では、岩手県が最大100万円の上乗せなどを決めた。

 兵庫県は、年間5千円の掛け金で最大600万円が支給される住宅再建共済制度を2005年に創設。全国化を目指しているが、加入世帯は8%台にとどまっている。

 神戸市の市民団体「兵庫県震災復興研究センター」の出口俊一事務局長は「震災から1年がたつと、資金力のある人とない人で復興に差が出始める。住宅や仕事の再建に意欲が出るような支援策と復興スケジュールを早く示すことが必要だ」と指摘する。

(岸本達也)

再建費の援助 ほぼ全員希望 宮城・亘理でアンケート

 神戸新聞社は、宮城県亘理(わたり)町の「公共ゾーン仮設住宅」(558戸)でアンケートを行い、44人から回答を得た。

 生活再建に向け、資金面で支援を求める分野を複数回答で問うたところ、最も多かったのは「住宅の再建費」で42人。「家具や日用品の費用」「震災前に組んだローン(の返済)」が続いた=グラフ。

 国や自治体に力を入れてほしい分野(複数回答)でも、最多は「住宅の確保・再建」(40人)。このほか、「道路、施設などインフラ」(18人)や「集落の再建・まちづくり」(17人)が目立った。

 義援金や被災者生活再建支援金など、これまでに受け取った公的な支援金の額は、「100万円から200万円未満」が23人、「200万円から300万円台」が14人だった。支援金が「生活再建の足がかりにはなる」と答えたのは15人いたが、一方で半数以上の26人が「全く足りない」と答え、34人が500万円以上の支援金を求めた。

 アンケートは今年2月、神戸市の市民団体「兵庫県震災復興研究センター」などの協力で行った。

2012/3/5
 

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