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(6)学校支援 子どもとともに 前向いて
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震災後に始まったスクールバス。被災地は願う。「たくましく育って」=宮城県南三陸町歌津、伊里前小学校(撮影・斎藤雅志)
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震災後に始まったスクールバス。被災地は願う。「たくましく育って」=宮城県南三陸町歌津、伊里前小学校(撮影・斎藤雅志)

  • 震災後に始まったスクールバス。被災地は願う。「たくましく育って」=宮城県南三陸町歌津、伊里前小学校(撮影・斎藤雅志)

震災後に始まったスクールバス。被災地は願う。「たくましく育って」=宮城県南三陸町歌津、伊里前小学校(撮影・斎藤雅志)

震災後に始まったスクールバス。被災地は願う。「たくましく育って」=宮城県南三陸町歌津、伊里前小学校(撮影・斎藤雅志)

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 「皆さんにこうしてお話をするのは、前もって分かっていれば、心構えができるからです」。2月20日、集まった約60人の保護者らに、兵庫県臨床心理士会のカウンセラー中村経子(のりこ)さん(37)が切り出した。

 津波で被災した宮城県南三陸町立伊里前(いさとまえ)小学校を訪れたのは5回目。話が終わった後、5人の保護者がやって来た。「子どもがお墓の絵ばかり書くんです」。長い人は1時間も話し込んで帰って行った。

 津波は少し高台にあった校舎1階にも押し寄せた。全児童154人と教師17人は無事だったが、児童4人が保護者やきょうだいを亡くし、約4割が家を失った。

 「振り向かないで、前を向いて逃げなさい」。迫り来る津波が目に入った時、教頭の菅野寿子さん(56)はそう叫んだ。「あの恐ろしい津波が、子どもたちの記憶に刻まれてほしくなかった」と振り返る。

 阪神・淡路大震災を機に、国によるスクールカウンセラー事業が始まった。兵庫県には震災以降、臨床心理士らが小中学校に配置されている。だが、東北は専門家が少なく、他府県の支援に頼る。児童だけでなく、保護者も教師も初めて体験する大災害。中村さんは訪れた当初、「現場は私たちをどう頼ったらいいのかさえ、分かっていなかった」と感じた。

    ◆

 昨年5月10日の学校再開直後、児童たちは元気に見えた。震災前のように友人とふざけ、遊ぶ姿に教師らもほっとした。

 しかし、6月になると、避難所から仮設住宅に移ったり、修復した自宅に戻ったりと、児童の生活にも差が出てきた。避難所で励まし合ったころは「みんな同じ」と思うことで苦難を乗り越えられたが、違いを感じると不安になる。「子ども返りをする」「夜になると泣く」-。保護者や教師からSOSが上がり始めた。

 「これで大丈夫か」。保護者らは何度も、子どもとの接し方が正しいかどうか、答えを求めた。その度に、中村さんは「それでいいんですよ」と肯定した上で、「好ましくない反応も、気持ちを前向きに切り替えるきっかけになる。それが出ないようにするのではなく、安心して出せる雰囲気をつくってあげて」と返した。

 3月11日、震災から1年を迎える。「あの日を思い出す日が初めてくる。児童の不安が増すのでは」と菅野さんは2月、中村さんを招いた。中村さんは、保護者らに子どもが落ち着かなくなる「記念日反応」は自然で、誰にでもあることだと伝えた。

 震災以降、住まいの範囲はスクールバスがないと登校できないほど広がり、児童たちは放課後に遊ぶ場所もない。「先の不安は大きいけれど、学校を子どもらしく、安心してすごせる場にしたい」。菅野さんは力を込めた。

学校支援 長い目で 派遣教師ら 現場の負担減優先 被災3県

 東日本大震災の被災地で、17年前の阪神・淡路大震災以降、兵庫県内の学校現場で児童・生徒を支えてきた教師や専門家が支援を続けている。兵庫県内では震災後、スクールカウンセラーに加え、通常の教員定数に加えて配置された「教育復興担当教員」(復興担)も心のケアなどを担った。発生から1年となる被災地に派遣されている兵庫の教師らは「先は長い。現場の先生や保護者を支えることが、子どもの支援につながる」と強調する。

 豊岡市の学校などでスクールカウンセラーを務める兵庫県臨床心理士会の阿部昇さん(51)は、高校生まで過ごした故郷・宮城県石巻市の特別支援学校などで支援に取り組む。

 県外からの支援は短期が中心のため、継続的な関わりが必要な子どもへの直接カウンセリングではなく、子どもと日常的に接する教師や保護者を対象にした「間接支援」に軸足を置く。

 阿部さんはこれまでに十数回、石巻市に入った。「親を亡くした子どもにどう接したらいいのか」などの悩みを抱える教師と月1回ペースで交流の場を持ち、助言、意見交換を続ける。「遠くからの支援に心を開いてもらうには、『ノウハウを持つ人たち』と思ってもらう必要がある。震災を経験した兵庫の支援者には期待を感じた」と話す。

 岩手、宮城、福島の被災3県では2011年度、カウンセラーによる支援だけでなく、学校現場の教師も計993人増員された。教訓とされた阪神・淡路の被災地では、15年間、「復興担」(05年度以降は「心のケア担当教員)を配置。ピーク時の1996~2000年度は、毎年207人が神戸市や阪神間の小中学校に置かれた。

 阪神・淡路で04、05年度に復興担を務めた芦屋市立宮川小学校教諭の瀧ノ内秀都さん(48)は「10年を経ても、震災の影響で家庭環境が不安定な子どもがいる。東日本では仕事を失った保護者も多いと聞く。長い道のりになるので、現場の先生に負担がかかりすぎない後方支援が必要だ」と指摘している。

(宮本万里子)

=おわり=

2012/3/10

 

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