9月中旬、阪急西宮ガーデンズ(西宮市高松町)4階の屋外広場に、若者らの歌声や演奏が響いた。8回を数える「にしきた音楽祭」のステージ。白髪交じりの2人が楽しげに見つめていた。
阪急西宮北口駅北西にあるにしきた商店街会長の矢田貝充彦さん(70)と、北東のアクタ西宮振興会副理事長の松山享さん(67)。スタッフとして音楽祭を支える。
「にしきた」は、駅から東西南北に延びる線路で隔てられている。かつては、北東に商店街や一戸建ての住宅街、北西に飲食店街、南東に西宮球場、南西に集合住宅と特色が異なり、互いに交わることはなかった。
しかし、阪神・淡路大震災で一変。北東の商店は再開発ビルに集約され、集客施設のなかった南西に兵庫県立芸術文化センター、球場跡にはガーデンズが建った。
2004年、駅北東と北西とをつなぐ踏切で、松山さんと矢田貝さんは出くわした。ちょうど、ガーデンズの建設が持ち上がっていたころ。あいさつもそこそこに、松山さんが切り出した。
「大型施設ができれば地元の商売がしぼむで」
同じ思いの矢田貝さんが返す。「4地区が分かれたままではあかん。時間がかかってもいいからまとまらんと」
近くて遠かった地区同士が、手を組んだ瞬間だった。
06年、「西北活性化協議会」が誕生。2年後にはガーデンズも加わり、4地区がそろった。
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「成功の秘訣(ひけつ)をぜひ教えていただきたい」
東日本大震災からの復興のシンボルとして、音楽ホール建設が検討されている仙台市。民間有志による視察団が西宮を度々訪れ、芸文センターやにしきたの関係者と意見交換している。
昨年4月、松山さんは仙台でのシンポジウムに招かれた。18年間を振り返り、強調した。
「建物だけでは復興にはつながらない。いかに地域を巻き込んでいけるか、です」
その言葉通り、「音楽」をキーワードに取り組みが進む。芸文センターのオペラ上演を盛り上げ、前夜祭には約千人が訪れる。音楽祭もその一つ。人気行事となったクリスマスイルミネーションも、ゴスペルなどが雰囲気を演出する。
協議会のシンボルマークは四つ葉のクローバー。4地区をハート形に見立て、駅を中心につながる姿を描く。「震災を乗り越えるには、一枚岩になるしかなかった」と矢田貝さん。
再生に向け、人々が走り続けた20年。そしてこれから。「にしきた」は光と陰の記憶を紡ぎ続ける。(斉藤絵美)
=おわり=
2014/10/29