そこには、阪神・淡路大震災の起きた1995年から約5年間、数百戸の仮設住宅が立ち並んでいた。
神戸・六甲アイランド。毎年春になると、約3万本のチューリップが咲き誇る。そのために昨秋も住民らが集まり球根を植えた。
呼び掛けるのは「六甲アイランドを美しい街にする会」。米谷稔代表(80)は震災後、島内美化のためさまざまな花を植えている。
当時、仮設の住民が毎朝開くラジオ体操に参加し、「人生狂ってしまった」などと、悲痛な声を聞いた。「せめて花を見て心を和ませてほしい」と考えた。
当初は、仮設からも25人が参加。一緒に土を耕し花壇をつくった。しかし島内の公営住宅などに入居を果たすと姿を見せなくなった。
「ほっとして体が動かなくなったんでしょうね」
現在、仮設の跡地はマンションや芝生広場に。毎年春に咲きそろうチューリップと花壇の花々だけが、わずかに当時の記憶をつないでいる。(三津山朋彦)
2020/1/11