兵庫県豊岡市にある小さな建設会社「袖長建設」の応接室。１９人の社員を束ねる社長が、緊張した面持ちで、テーブル越しに座る市職員と税理士、社会保険労務士と向き合う。

　残業の事前届け出、直行直帰時の労働時間の管理、男女別のトイレの設置…。細かい確認が、２時間ほど続く。女性も働きやすい事業所を増やそうと、２０２０年に始まった同市の独自の認定制度「ワークイノベーション表彰（愛称・あんしんカンパニー）」の２次審査だ。

　この会社は、公共事業の請け負いを中心に成長してきたが、一戸建て住宅の建設や改修にも手を広げるようになった。女性も働きやすい職場づくりを目指す市の「ワークイノベーション（ＷＩ）推進会議」に加わり、あんしんカンパニーの認定取得も目指す。その理由について、社長は「女性の視点も重要だと思い、職場環境を整えるきっかけにしたかった」と説明する。

　審査項目が、管理職における女性比率の目標設定に移った。社長が言葉を詰まらせる。社員１９人のうち、女性は５人。育休から職場復帰した女性も含め、それぞれの状況を把握しているからこそ、「子どもが生まれても戻ってきたいと思える会社づくりが精いっぱい」と正直に回答した。

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　あんしんカンパニーの認定第１号は、城崎温泉の旅館「湯楽」（同市城崎町湯島）などを運営する企業だった。多くの旅館では、スタッフが午後から翌日午前まで働く「たすき掛け勤務」が通例となっている。宿泊客を同じスタッフが担当するという「おもてなし」の一つだ。

　一方で、拘束時間が長いという問題があり、人手不足の大きな要因にもなっていた。湯楽では００年ごろから、日をまたがない朝から晩までのシフト制へ切り替えた。その結果、旅館の料理長に子育て中の女性を据えることができた。

　１０年以上前から、同社の海鮮直売所でパート勤務をしていた中村月美さん（４７）。結婚前に割烹料理店に勤めていた経験と、周囲へのサポート力を見込まれた。

　料理長の立場だが、メインの夕食は下準備だけをして、午後５時には帰宅する。若手を含めチームで動き、メニューのアイデアも全員から募る。一人の男性料理長が全てを仕切ることが一般的な業界では珍しい光景だ。中村さんは話す。「この年からでも成長につながる経験をできる。娘たちも自慢に思ってくれていることがうれしい」

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　企業自らが、従業員の職場環境に「ジェンダーレンズ」を向けてほしい－。そんな願いが込められた認定制度では、女性活躍推進法に基づき、一定の基準を満たす企業を国が認定する「えるぼし」が知られている。しかし、行動計画の成果の公表は義務付けられておらず、専門家からも「目標値や制度を整えれば取得できてしまう」との指摘が出ている。日本経済新聞が２１年に従業員５００１人以上の１５６企業・団体に調査した結果、女性登用など計画を達成した企業は４割にとどまっていた。

　豊岡のあんしんカンパニーも、継続的な成果の見極めこそ求められていないものの、１次審査で、全従業員の意識調査が義務付けられている点が大きな特長だ。男女ともに、３分の２以上が「働きやすい職場」と評価していることが必須項目となっており、そのハードルは高い。

　現段階では認証を取得したとして、企業にとって大きなメリットがあるわけではなく、ＷＩ推進会議には約９０社が名を連ねるが、これまでにあんしんカンパニーの取得を目指したのはごく一部だ。審査を通過し、晴れて認証を受けた事業所はさらに少なく、３社にとどまる。

　それでも、袖長建設は今回挑戦した。審査結果を待つ社長が言う。「男女とも境目の無い職場づくりを目指しているが、外部から見て今の方向性が正しいのか知りたかった」

【メモ】２０２２年４月の女性活躍推進法の改正で、女性管理職の数値目標を定めるなどの女性活躍に関する行動計画の策定義務が、従業員「３０１人以上」から、「１０１人以上」の事業者まで拡大。兵庫県内で「えるぼし」認定企業は３５社（２２年１１月１７日時点）。また、県と神戸市は同年１２月、取り組みの方向性を自己診断する「女性活躍推進企業認定制度（ミモザ企業）」を創設した。

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