
昨秋の陸上世界選手権女子5000メートル決勝で、日本歴代2位となる15分0秒01をマークした20歳の田中希実(豊田自動織機TC、西脇工高出)。東京五輪の参加標準記録も突破し、今夏の大舞台が射程に入っていた。だが3月、五輪の延期が決定し、「なんのために走っているのか、考えさせられた」と戸惑いもあった。導き出した答えは「速くて強い選手になりたい」。理想の選手像を追い求め、走り続ける。(金山成美)
五輪延期が明らかになった日、田中は「今年開催されなくても、夏に向けて競技力を維持して練習し、自己ベスト更新を目標にやっていく」と、先を見据えた思いを語っていた。その後、大会は次々と中止、延期となり、例年は春から始まるトラックシーズンは開幕しないままだ。「レースがなく、今の力が分からないのが不安」と4月は精神的にしんどい時期もあった。
スポーツ健康科学部で学ぶ同大への通学もなく、兵庫県小野市の実家に戻った。オンラインで授業を受け、在宅での学習にも力を入れるが、「メリハリがつけにくい。早く学校に行きたい」と望みながら、帰省している男子大学生らと一緒に走ったり、タイムトライアルを取り入れて力を試したりするなど、工夫を凝らして練習を続けている。
800メートルから1万メートルまでさまざまな距離に取り組み、昨年は1500メートル、3000メートル、5000メートルで前年マークした自己記録をさらに塗り替えた。それでもなお「いずれの距離でも、まだベストを出せる手応えが昨年あった。全部の種目で伸びしろがあると思ってやっている」。冬にスピードを落とさずに春を迎えることができ、持久力やスタミナの強化に力を入れてきたことで、「公式ではないが、同時期の同じ距離で昨年よりいいタイムが出ていて、満足感や達成感を持てている」と、さらなる成長を感じている。
大会に向けての準備は着実に重ね、「積極的なレースをして、日本記録を狙う。(専門ではない)800メートルでも、日本トップクラスの選手に『おっ』と思われるタイムを狙おうというワクワク感がある」と気力も充実。「ありのままの私を見てほしい。もし誰かの励みになったら、うれしいな」。快走を披露する場を、心待ちにしている。
