
いなくなって、その偉大さを改めて感じている。ラグビー・トップリーグの神戸製鋼を退団した世界的SOダン・カーター。2連覇を目指すシーズンがコロナ禍で早々に打ち切られたから、喪失感はなおさらだ。
身長178センチ、体重96キロは一見目立たない。だが、パスやラン、キック全てのスキルが高く、判断がことごとく正確。昨季、敗れたサントリーの沢木敬介監督が語った「素晴らしい教科書」とは言い得て妙だった。また、スターにありがちな尊大さとも無縁。最後まで居残りのキック練習を繰り返し、丁寧に取材に応じるのが常だった。
「今までされたことのない質問をしてみてよ」。おどけた表情で言われたことを思い出す。その数日前に事故死したバスケットボール界の巨星、コービー・ブライアント氏について尋ねると、「彼のベストになろうとする精神力や取り組みを参考にしてきたんだ。聞いてくれてありがとう」。紳士で飾らないナイスガイだった。
世界年間最優秀選手に3度輝いたカーターも38歳。引退もうわさされたが、母国ニュージーランドで現役続行を選んだ。寂しいけれど、珠玉のプレーがまた見られることがうれしい。記者も今季で4年間のラグビー担当を終え、サッカー担当に復帰した。今のJ1神戸にはアンドレス・イニエスタが君臨する。スーパースターが神戸にいる幸せを再びかみしめながら、その姿を目に焼き付けたい。(山本哲志)
