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14年ぶりの日本記録更新に表情を緩める田中希実=8月23日、国立競技場
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14年ぶりの日本記録更新に表情を緩める田中希実=8月23日、国立競技場
セイコー・ゴールデングランプリ女子1500メートルで4分5秒27の日本新記録を樹立した田中希実(手前)=8月23日、国立競技場
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セイコー・ゴールデングランプリ女子1500メートルで4分5秒27の日本新記録を樹立した田中希実(手前)=8月23日、国立競技場

 2020年8月23日、新調された東京・国立競技場。20歳のアスリートが陸上の日本新記録を打ち立てた。

 セイコー・ゴールデングランプリ女子1500メートルは午後3時35分、選手9人でスタート。田中希実(豊田自動織機TC)はすぐに先頭に立った。1周目の400メートルを66秒、2周目は65秒と、ハイペースで引っ張っていく。食らいつくのは、昨年の日本選手権女王、卜部蘭(積水化学)。

 残り1周の鐘が鳴ると、田中はギアを切り替えたようにスピードを上げ、独走態勢に入った。伸びやかに。力強く。フィニッシュを目指す。

 4分5秒27-

 無観客の会場に、見守る関係者のどよめきが響いた。

 来夏に延期された東京五輪会場で、14年ぶりに日本記録が塗り替えられた。従来の記録保持者は同じ兵庫県小野市出身の小林祐梨子さん。

 田中はレース後、「無我夢中だった」と振り返った。珍しく、目には涙が光っていた。

    ◇    ◇

 大会1カ月前、田中は今季初レースとなったホクレン中長距離チャレンジの1500メートルで、日本歴代2位となる4分8秒68をマーク。次戦は3000メートルで8分41秒35を出し、18年前に福士加代子(ワコール)が出した日本記録を更新した。

 快進撃を続ける田中へ、おのずと高まる日本新の期待。「自分もそう位置付けて、タイムは今回のレースでと意識して練習していた」と自身も今大会に照準を定めた。

 だが当日朝、練習で調子が良くなく、迷いが生じた。昼に小林さんに「タイムを気にせずにいこうと思います」と不安な思いを無料通信アプリLINE(ライン)で打ち明け「『それが大事』って返事をもらい、自分でいくくらいの気持ちでとイメージが固まった」と前を向くことができた。

 会場入りすると、思わぬ事態が起こった。招集時に、使用予定の靴が規定に沿わないと指摘を受け、父の健智コーチが慌ててホテルへシューズを取りに戻った。「直前のトラブルは初めて。パニックになった」が、ライバルの前で表情に出さないよう努め、「今何ができるか」を考えてインソールをはがして履いてみるなど試みた。周囲からは、落ち着いて見えたようだ。

 無事靴が届いて安心したが「ドキドキが収まらなかった」と落ち着かない。「何も考えない方がいいなと頭を空っぽにして、自分の走りに身を任せようという決意がより固まった」。感覚を信じ、無心に走った。

    ◇    ◇

 堂々とした姿は、多くの人の心を揺さぶった。日々の練習、悔しい経験、世界の力を知ったこと、周囲の支え、速くなりたい思い。さまざまな蓄積が、タイムという形で表出した。

 「満足いく結果が出せたとき、思いが伝わるレースになっていることが多い。何かを伝えられる選手でいたい」と田中はいう。あの日の涙の理由は「結果を出せたうれしい気持ちと、支えてくれた人たちに走りで伝えられたという思いが込み上げてきたから」

 大切にしている言葉「一志走伝(いっしそうでん)」を体現した。

    ■    ■

 田中は今夏、2種目で日本記録を更新。秋には1500メートルで日本選手権初優勝を果たした。マルチランナーとして速く、強く、進化しており、さらなる伸びしろも秘めている。9月に21歳になった等身大のアスリートを追った。(金山成美)

【たなか・のぞみ】1999年9月4日、小野市生まれ。陸上女子1500メートル、3000メートルの日本記録保持者。母千洋さんは北海道マラソン優勝などを誇る市民ランナー、コーチを務める父健智さんも元実業団選手。小野南中では全国中学校体育大会1500メートルで優勝。西脇工高では兵庫県高校駅伝1区3年連続区間新記録でチームの優勝に貢献した。2018年U20世界選手権3000メートル優勝、19年世界選手権5000メートル14位。今年の日本選手権1500メートル優勝。豊田自動織機TC、同大3年。153センチ、41キロ。21歳。

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