
女子サッカーとしては国内初のプロリーグ「WE(ウィ)リーグ」が来年9月、開幕する。現行のトップリーグ「なでしこリーグ」の所属クラブなどが参入し、11チームでスタートする。新リーグは女性主体で運営し、選手の妊娠、出産にも配慮。女性向け企業とも連携し、サッカー界から「女性活躍」を発信する。(尾藤央一)
国内の全国女子サッカーは1989年に始まった。
当初の「Lリーグ」から2004年に「なでしこリーグ」になったが、基本的にアマチュアで活動してきた。11年の女子ワールドカップ(W杯)で初優勝した「なでしこジャパン」は空前のブームを起こしたが、近年、人気は停滞気味だ。
日本サッカー協会は代表強化や選手の環境整備のためにプロリーグ新設を決めた。
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リーグ名の「WE」は女性活躍などを意味する「Women Empowerment」の略。
男性中心の運営からの転換を図るため、意思決定に関わるクラブ役員のうち1人以上が女性▽女性の指導者を1人以上▽3年以内に職員の半分を女性-などの参入基準を設けた。
妊娠7カ月でプロツアーに出場した女子ゴルフの横峯さくら選手ら、近年は結婚後も現役を続行するアスリートが増えている。
WEリーグでは、規定で期間が限定されている選手登録について、妊娠、出産で活動を中断した場合は復帰できる規則を設けた。「産休」として扱い、母親になっても競技を続けやすい環境を整える。
リーグ代表理事の岡島喜久子チェアは「『女子でもプロ選手になれる』というリーグにしていきたい」と将来像を描く。
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新リーグへの参戦が決まっているINAC神戸は、選手による特別授業を計画している。
出身校や地域の学校でプロになるまでの生い立ちを語り、女子プロサッカー選手の存在感を高める狙いだ。安本卓史社長は「サッカーをしていなくても『あんなお姉さんになりたい』と思う子どもを増やしたい」と話す。
企業との連携も進める。医療系企業と協力し、選手の血液データを採取。貧血を判断する指標「血中ヘモグロビン量」を測定し、女子アスリートの体づくりに結びつけている。
岡島チェアは「日焼け止めや生理用品など、一般女性のニーズにも合わせた商品開発につながれば」と期待する。
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一方、財政面や集客面で不安は残る。
WEリーグは平均観客数5千人以上を掲げるが、なでしこリーグ屈指のINAC神戸でも5千人を超えたのは昨季1試合だけだ。
さらに、プロ化すれば現役引退後の生活は保障されない。それでもINAC神戸の西川彩華選手は「働きながらプレーしていた時と比べ、自分自身と向き合う時間が長くなる。サッカーで生きていくので責任感が出る」と前向きに受け止めている。
■ファン獲得へ新リーグ続々
スポーツ界では近年、新リーグの設立が相次いでいる。男子プロバスケットボールのBリーグは5季目、バレーボールのVリーグは3季目を迎えた。背景には、少子化による競技人口やファン減少という共通の危機感がある。
2019年のワールドカップ(W杯)日本大会で盛り上がったラグビーも新リーグ発足に向けて動いている。日本ラグビー協会は「W杯を再招致し、代表が優勝する」との目標を掲げ、神戸製鋼などが加盟するトップリーグ(TL)を発展的に再編。22年1月の開幕を予定している。
新リーグ移行後、試合の興行権は同協会から各チームに移り、チケット収入はホームチームの売り上げに計上される。神戸製鋼ラグビー部支援室の福本正幸室長は「各チームが集客のため、地元に力を入れるようになる」と賛同。ファンを増やすため、選手による学校訪問など地域活動がより活発になると予想する。
ただ、ラグビーの新リーグでは、選手全員がプロ契約になるわけではない。福本室長は「プロだけになれば、裾野が狭くなる」と、これまでと同じく親会社などの社員選手とプロ選手との共存を続ける考えだ。(有島弘記)
【WEリーグ】プレナスなでしこリーグで5連覇した日テレ・東京ヴェルディベレーザやINAC神戸レオネッサ、女子チームを新設するJ1サンフレッチェ広島のほか、なでしこリーグ2部などの17団体から入会申請があった。欧州リーグに合わせた「秋春制」とし、初シーズンは2022年5月ごろ終了予定。新リーグはアマチュアで存続するなでしこリーグの上位に置かれ、当面は降格がなく、2年目以降は新規参入によってクラブ数を増やしていく方針。
