
「ベンチャースポーツ」という言葉をご存じだろうか。マイナースポーツを前向きに表した言葉として最近、注目されている。まだ知名度が低い競技でも、選手たちは五輪代表と同様の意気込みで国際大会に挑む。将来的に五輪採用を目指す競技もある中、兵庫県内でもじわりとプレーヤーが増えつつある。さて、その魅力とは-。
◇ ◇
■ベルトつかんで投げ技競う 競技人口100人「世界が近い」
大阪を中心に活動する「民族格闘技研究所」なる任意団体。田中弘済所長に名刺を手渡された。「これを見せたら、たいてい怪しまれますね」と笑う。
「格闘技は民族の数だけある」と田中さんは語る。中でも帯を腰に巻いて投げ合う格闘技は世界各地に存在し、古いもので4500年の歴史があるとも言われている。
その一つ、ベルトレスリングはロシアや中央アジア全域で盛んだ。2013年、ロシア開催だったユニバーシアードでは競技に採用され、女子76キロ級で日本選手が優勝した。日本ベルトレスリング協会の事務局長でもある田中さんは「アジア大会の競技入りも近いのでは」と期待を寄せる。
特徴はベルトだ。相手の腰の帯を、両手首に1周させた状態で持ち、試合が始まる。相手を浮かせ、背中から地に着けるとフォール勝ちになる。
帯から手を放してはいけないため「派手に吹っ飛ぶ。勝敗が分かりやすい」と41歳の波多野鉄兵は魅力を話す。17年にはアジアオリンピック評議会主催のアジアインドア&マーシャルアーツゲームズに日本代表として出場。関学大レスリング部の監督も務める。
国内の競技人口は推定100人で、専門選手はいないという。国際大会の開催が決まれば、日本代表選考会に向けてレスリングや柔道経験者らが練習を始める。代表選手は大阪や兵庫に多い。
周囲には「ベルトレスリングって何やねん」と言われ、「そのたびに一から説明する」と苦笑する波多野。「私もやってみたい」という声は「残念ながらまだない…」。
しかし、レスリングにもいい効果が表れるのだという。「相手の腰の帯を持って引きつけるので、そり投げの力が付く」
◇
神戸医療福祉大講師の31歳、黒崎辰馬は東福岡高、福岡大出身で、レスリングの全日本選手権で入賞歴がある。「選手の幅と、人間としての知見を広めたかった」とこの世界へ。他国選手との交流も含め、日本代表として積んだ経験は財産だ。
レスリングや柔道では日本の女子が強く、五輪でもメダルを量産する。田中さんは女子選手に着目し「競技人口が少なく、世界が近い。第二の競技として挑戦し、成長してほしい」と訴える。
競技の普及を目指し、民族格闘技研究所は会員制交流サイト(SNS)での発信や練習会を行っている。問い合わせはメールで同研究所へ。minzoku.kaku@gmail.com
(藤村有希子)
【ベルトレスリング】帯を使う民族格闘技がルーツで、ロシアや中央アジアで盛ん。胴着と白いズボンを着用し、階級別に争う。右四つになり、相手の腰の帯を自らの両手首に1周させた状態で握り試合スタート。時間は5分。相手を浮かせ、背中から投げ落とすとフォール勝ち。投げ方で得点が変わり、6点リードでテクニカルフォール勝ち。帯を手放すと警告を受け、相手に1点が入る。
