
「ベンチャースポーツ」という言葉をご存じだろうか。マイナースポーツを前向きに表した言葉として最近、注目されている。まだ知名度が低い競技でも、選手たちは五輪代表と同様の意気込みで国際大会に挑む。将来的に五輪採用を目指す競技もある中、兵庫県内でもじわりとプレーヤーが増えつつある。さて、その魅力とは-。
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■小ぶりなラケット壁も利用 メッシ、ナダルら愛好者
世界にニュースポーツは数あれど、最も著名な選手が親しんでいる競技だろう。サッカーの最優秀選手賞「バロンドール」を史上最多6度獲得しているメッシ、テニスで歴代最多20度の四大大会制覇を誇るナダルらが愛好者として知られる。
それに引き換え、日本での知名度は低い。2013年に上陸したばかりで、国内の専用コートは昨年末で14カ所27面に限られる。その一つが神戸にあると知り、訪ねた。
19年春、神戸・ポートアイランドにオープンした「パデル神戸プラス」。夫婦で試合を楽しんでいた会社員の男性(48)=神戸市中央区=は「強打しても跳ね返ってくるから、パワーやスピードだけでポイントが取れない。駆け引きが面白い」と汗をぬぐった。
テニス経験者の記者も体験してみた。後ろのガラスにバウンドしたボールを相手コートに打ち返す感覚は新鮮だ。サーブを下から打つのでダブルフォールトを連発する心配がなく、ラケットは小ぶりで当てやすい。
同施設を運営する畑浩平社長(39)は「サッカー一筋の自分もすぐにはまった」。発祥のスペインではサッカーに次ぐ人気を誇り、セレッソ大阪前監督のロティーナ氏(現清水エスパルス監督)は施設の常連だったとか。昨年、ヴィッセル神戸の元スペイン代表イニエスタが初めて訪れた時は「めちゃくちゃうれしかった」と目を輝かせる。
日本パデル協会が16年に設立され、選手育成にも力を注ぐ。「忍(にん)ジャパン」の愛称を持つ日本代表は18年の世界選手権に女子が初出場し、16チーム中14位。同協会の玉井勝善副会長(45)は「歴史があるスペインやアルゼンチンとの実力差は大きいが、必ず強くなれる」と断言する。
根拠の一つは、五輪正式種目への期待だ。欧州オリンピック委員会が主催するヨーロッパ競技大会で実施される機運が高まっているといい、「約10年先の五輪開催地がパデルの盛んな欧州か南米になれば、採択の可能性は高い」とみる。そうすれば人気が急上昇し、今後競技を始める子どもたちが、オリンピアンになる未来も開けてくる。
コロナ禍ならではの新たな価値にも着目したい。屋外で距離を保ちながらプレーでき、他の参加者はガラス越しに観戦する。「ペアを組む相手だけでなく、その場のみんなが交流できるソーシャル(社会的な)スポーツ」と玉井副会長。運動不足と人に会えない寂しさを、一気に解消できる機会になるかもしれない。(山本哲志)
【パデル】1970年代にスペインで発祥したテニスとスカッシュを合わせたようなスポーツ。競技人口は欧州や南米など90カ国以上で約1800万人という。ルールはテニスに近いが、対戦はダブルスのみ。縦20メートル、横10メートルのコートを強化ガラスと金網が囲み、壁のバウンドを使えるのが特徴。ラケットは板状で、舟をこぐ「パドル」に形が似ていることから競技名が付いたとされる。
