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雄々しい上立神岩に歓声を上げる観光客。ぬぼこの会のメンバーが誇らしげに語る=南あわじ市沼島(撮影・小林良多)
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雄々しい上立神岩に歓声を上げる観光客。ぬぼこの会のメンバーが誇らしげに語る=南あわじ市沼島(撮影・小林良多)

雄々しい上立神岩に歓声を上げる観光客。ぬぼこの会のメンバーが誇らしげに語る=南あわじ市沼島(撮影・小林良多)

雄々しい上立神岩に歓声を上げる観光客。ぬぼこの会のメンバーが誇らしげに語る=南あわじ市沼島(撮影・小林良多)

 8月下旬の昼下がり、沼島(ぬしま)の島内をにぎやかな一行が巡った。

 ピンクのジャンパー姿の中高年女性3人は、ボランティアガイド「ぬぼこの会」。この日は、神戸から来た40代の夫婦を案内した。

 島の中心部にある沼島八幡神社の石段を上る。42段の男坂、33段の女坂。「厄年と同じ数ですねんで」。会のリーダー的存在、魚谷佳代子さん(74)が豆知識を披露する。

 町を抜け、山道を登りきると、太平洋が広がった。

 「あれが上立神岩(かみたてがみいわ)。みな『たてがみさん』って呼んでます」

 3人が指さす先には、海から突き出る約30メートルの巨大奇岩。「うわ、すっごいな」。夫婦が声を上げた。

 すかさず、魚谷さんが「ほら見て、あのくぼみ。ハートに見えません? 恋愛成就のうわさもあるんやって」。島一押しのパワースポットを売り込む。

 帰り道もおしゃべりは続く。「このキキョウラン、県内で自生してるのこの辺だけですねんて」。ガイドブックにない情報を次々と。

 「ふらっと来たけどいい島ですね。1日じゃ回りきれない」。夫婦の言葉に3人は満足そうな笑顔を見せた。

 ぬぼこの会が結成されたのは8年前。生活の足である沼島汽船の存続が持ち上がったのがきっかけだった。

 「島以外の人に乗ってもらわんともたん」

 神宮寺住職の中川宜昭さん(76)が、公民館活動で郷土史を学ぶ主婦ら20人に声をかけた。「詳しい話は僕がするから。笑顔で島を案内してみてよ」。中川さんは沼島中の元社会科教諭。島の歴史にも精通している。

 魚谷さんらは考えに考えた。何をガイドするのか。生まれ育ったこの島の「ええとこ」って何だろう-。

 ダイナミックな海岸。日本はじまりの地とされる神秘的な伝説や社寺。文献を読み、シナリオを練った。普段散歩するような何げない海辺が、観光客には意外に受けることにも気付かされた。

 2年前には、古民家を改装した観光案内所「〓甚(よしじん)」もオープン。11万人台で足踏みしていた汽船の乗客は2014年度、13万8千人に伸びた。沼島に足を運ぶ人がじわじわ増えてきた。

 白状しておこう。

 沼島を観光で盛り上げる? 1カ月の住み込み取材の前は正直、ぴんとこなかった。

 初めて島に渡った日、中川さんに言われた。「あんたがこの島で何を感じたか教えてほしい」。見透かされたようで言葉に詰まった。

 観光地によくある店やレジャー施設はほとんどない。派手な集客イベントも似合わない。

 だけど、こんなにきれいな夕日は見たことなかった。路地に猫が寝そべって、楽しい人たちが声を掛け合って。島の時間は輝いて見えた。

 「お客さんに『また会いに来ます』と言われるのがうれしいねん」。魚谷さんは言った。誰かに会いに行く島。中川さんからの宿題にはそう答えよう。(岡西篤志)

※文中の「〓」は「吉」の上が「土」

2015/9/19
 

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