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真夜中の盆踊りは大いに盛り上がる。やぐらの上で番傘を差すのが「音頭だし」=南あわじ市沼島(撮影・小林良多)
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真夜中の盆踊りは大いに盛り上がる。やぐらの上で番傘を差すのが「音頭だし」=南あわじ市沼島(撮影・小林良多)

真夜中の盆踊りは大いに盛り上がる。やぐらの上で番傘を差すのが「音頭だし」=南あわじ市沼島(撮影・小林良多)

真夜中の盆踊りは大いに盛り上がる。やぐらの上で番傘を差すのが「音頭だし」=南あわじ市沼島(撮影・小林良多)

 静かな島の夜に、太鼓の音が鳴り響く。

 8月初旬、沼島(ぬしま)。取材用に借りている空き家近くの公会堂に、夕食後の人たちが集まってきた。

 盆踊りの音頭「兵庫口説(くどき)」の練習だ。歌い手の「音頭だし」が番傘をかつぐ。音響装置のなかった時代のスピーカー代わりという。

 「あぁ 神の創りしこの島に おのころ島の名が残る」

 「沼島八景」の一説。歌と語りの間ぐらいか。太鼓がゆっくりとしたリズムを刻む。

 沼島の一大行事である盆踊りは13~17日、5地区で順に催される。深夜に始まり、未明まで。漁師の丸井貴文さん(43)によると「わしら子どもの時は、朝まで踊っとった」。

 運営は20~40代の若衆組が仕切る。中でも年長者は「船裁判(ふなさいばん)」と呼ばれ、その一声で踊りが始まり、終わる。

 「記者さんは、チャンカリ(茶わん借り)やね」。やぐらの設置を手伝ったり、飲み物を運んだり。中高生が担う雑用係だが、こうして祭りの仕込みを学んでいく。

 各家の玄関に飾られた水棚に、薄紫のセンニチコウの花、そうめん、団子が供えられる。故郷に戻ってくる人が増え、汽船に臨時便が出る。

 盆が始まった。

 「ここの盆踊りは、がいに(とても)供養の色が濃いんよ」。沼島伝統文化保存会メンバーの浅山豊さん(29)が、やぐらの周囲に木製の台「馬(うま)」を設置しながら言う。

 馬は結界。中の踊り場は「あの世とこの世が行き交う場所」。先祖の霊と一緒に踊り、口説を通じて最近の出来事を伝える。だからひたすら踊る。

 浅山さんから1冊の本を借りた。「聖霊奇譚(きたん)」。同保存会の会長を務める磯〓(FA11)剛さん(45)が昨年仕上げた。沼島の盆のすべてが詰まっている。

 島に50編以上残る兵庫口説は江戸時代、西日本で大流行した大阪音頭の一種。漁や海運を通じた沼島の交流の幅広さがうかがえる。阿波おどりの影響を受ける淡路島とは明らかに異なる。

 中学生のころ、口説をほめられたという磯〓(FA11)さん。その頃から「このままでは途絶える」と感じていた。危機感は募り6年前、保存会を立ち上げた。学校で子どもたちに音頭や踊りを教え、映像化も始めている。

 「先人が残してきたものを次へ渡したい。そのための種をまかなあかんのよ」

 15日午後10時、北区の踊りが始まった。

 「アー、ヨーイヨーイ、ヨーイヤサー」。踊り子が合いの手を入れ、手拍子を打つ。

 そろいの浴衣、菅笠(すげがさ)姿。「昔の風情を見たい」という要望に応じてくれた。地面をするような足さばき。女性は手の指先までゆらり、流れるような動きが美しい。

 日付が変わるころ、踊りの輪は二重に。最高潮だ。

 「僕らにとっては特別なもんやから」と会社員の松本大樹(ひろき)さん(31)。毎年大阪から帰省し、5日間踊り通す。

 午前3時すぎ、太鼓がやんだ。「また、来年やな」。人の輪が闇に溶けていった。

(岡西篤志)

 ◇NEXTに盆踊りの動画を掲載しています。

2015/9/15
 

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