「写真があると立ち直れないような気がして…」
そう言いうつむいたのは、保護猫団体「NPO法人東京キャットガーディアン」代表の山本葉子さん。写真がないのは、今回の主人公の盲目の猫・テプくんです。2008年3月に7歳で虹の橋のたもとに旅立ちました。
テプくんと山本さんとの出会いは偶然。2001年、山本さんの飼い猫のトプちゃんとカプちゃんの予防接種に訪れた動物病院の床で、生後3~4カ月のテプくんがのたのた這っていたとのこと。
山本さんが、「この子はどうしたの?」と尋ねたのを、何を聞き間違えたのか獣医師は「連れていく?」と。山本さんの返答を待たず、トプちゃんカプちゃんのキャリーバッグにポイッと入れたのだそう。そのまま山本さんの家の子になったんですって。
テプくんは大きく綺麗なグリーンの目がチャームポイントの、白黒ハチワレ猫。といっても、なんだか適当なハチワレだったとのこと。中心線がずれている感じ。それが何ともいえない味があり、愛おしい。
目は見えていないと獣医師に聞いていましたが、本当に見えていないの?と思うほど元気いっぱいです。レーダーでも搭載していたのでしょうか。ダイニングテーブルぐらいの高さなら、ひょいっと飛び乗ります。
でも、やっぱり見えていないのだなと山本さんが感じられた出来事があります。それは、普段閉じているトイレの蓋を開けて掃除している時のこと。テプくんは閉まっていると思って、ひょいと飛び乗ろうとしたのです。
しかし、この時は開いていました。頭からジャボンとはまってしまったとのこと。この時のテプくんのバツの悪そうな顔は、忘れられないのだそう。テプくん、災難でしたね。
こんなに楽しい日々を送らせてもらっているのも、テプくんを保護してくださった方がいたからこそ。保護してくださった方にご挨拶と、動物病院に詳細を聞き伺います。
テプくんを保護してくれたのは、大塚駅近くの飲食店の女将さん。都電の線路の上で大声で鳴いているテプくんを見つけ、慌てて保護してくれたのだそう。
この女将さんとの出会いが、山本さんの人生を大きく変えます。彼女は保護猫活動を個人で行っていたのです。野良猫を殺処分させないため、避妊去勢を手弁当で行い地域猫にしていると。
この話を聞き山本さんは「これだ!」と思ったのだそう。山本さんは子供の頃、目の前で野犬狩りを見たこともあり、保健所での殺処分に疑問を抱いていました。それを解決する方法と巡り会えたのです。
仕事の関係でちょうど一軒家を購入したところ。ここなら一時預かりができる。テプくんを引き取ったことで、色々と弾みがつきました。
その後の山本さんの活躍は目を見張るものがありました。ミュージシャンを派遣する会社を経営する傍ら、猫だけでなくアライグマや狸の保護や一時預かりも行います。テプくんはそんな山本さんの側で、ずっと応援し続けていました。
ところが、ようやく保護猫の任意団体を設立しようかという2007年にテプくんの腎不全が発覚します。何軒も動物病院を周り最適な治療法を探しますが、家で輸液が当時は最適でした。最終的には肺に水がたまり、窒息するような形でテプくんは息を引き取りました。
最後はテプくん、山本さんに背を向けたのだそう。
「あれが、テプのサヨナラの合図だったんです」
奇しくもテプくんが旅立ったのは、春うららかな日。こんな綺麗な日にどうして…しばらく現実と向き合えませんでした。時間を戻したい、でもあの苦しみをテプくんに味あわせるのは…。心をどこに持って行けば良いのか分からない。この時、写真を処分しました。
テプくんとの別れから10年以上経ち、任意団体だった東京キャットガーディアンは日本屈指の保護猫のNPO法人に。この間、山本さんは幸せな猫とも不幸な猫とも沢山接してきました。
今、山本さんがテプくんに伝えたいことがあるのだそう。
「もう1回会えたら、今度はもうちょっとマシな健康管理が出来るよと言いたいです。もっと先に気づいてあげられたね」
山本さんはテプくんとの経験を、多くの飼い主さんに伝えています。自分のように後悔する飼い主さんが一人でも減るように。それが、テプくんとの思い出を今につなげることだから。
インタビューの最後には、山本さんの表情は力強く輝いていました。
(まいどなニュース特約・ふじかわ 陽子)
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