本来のカンちゃんは凛々しく美しいワンコでした

野犬と聞くと、人里離れた山奥などで、群れをなして生きているイメージがあります。それも間違いではないですが、必ずしもそうとは限りません。今回紹介する元野犬でメスのワンコ・カンちゃんは、工場地帯で野犬として過ごしていたところを愛護センターに保護されました。

保護当時、カンちゃんはその環境からか体中にベッタリと油が付着し悪臭を放っていました。さらに、お乳がパンパンに張っており、過去に仔犬を産んだ経験があることがうかがえました。守ってきた自分の子犬たちを思ってか、カンちゃんは不安そうな表情を浮かべながら、愛護センターの隅っこで固まり、そして、諦めたような目で人間を見ていました。

■動物病院での健康診断後、サロンでシャンプーしてもらうことに

そんなカンちゃんを引き出すことにしたのが、福岡県を拠点に保護活動を行うボランティアのチーム、わんにゃんレスキューはぴねす(以下、はぴねす)。

同チームのスタッフが引き出すことにした際、カンちゃんは憔悴しきった表情を浮かべ、大暴れすることもなくクレート中におとなしく入ってくれました。しかし、とにかく疲れきった様子で「これから私はどうなるの?」と言わんばかりにスタッフを見てきます。

不憫に思うスタッフでしたが、まずはカンちゃんの健康状態を確認するために、動物病院へ直行し獣医さんに診てもらうことにしました。ここまで静かに従ってくれたカンちゃんですが、どんな行動を取るか予測不可能な面もあるため、念のため口輪を装着。その上で、血液検査、フィラリア検査、エコー検査などできる限りの検査を実施しました。

幸い、重大な疾患などはなかったカンちゃん。病院の後は、油で汚れたベタベタの体を洗ってもらうため、はぴねすと懇意のサロンに連れていきました。

■「自分の体にはいっさい触れさせない」

シャンプーを終えたカンちゃんは見違えるほどに綺麗になりました。そして、このおとなしく従順な性格から「この子はきっとすぐ人間に馴れてくれる」とスタッフは察しました。

そのままはぴねすのスタッフの家へと預けられることになったカンちゃんですが、ここで意外な行動を見せるようになりました。

それは「自分の体にはいっさい触れさせない」というもの。

スタッフがカンちゃんの体に触れようとすると、猛ダッシュで逃げまくり、追い込んで捕まえようとすれば、オシッコやウンチを撒き散らすほどのパニックを起こしました。「これ以上カンちゃんを追い詰めれば、噛むようになるかもしれない」と悟ったスタッフは、気を取り直し、カンちゃんが完全に信頼を寄せてくれるまでは慌てず、カンちゃんのペースを最優先に接するよう、思いを改めました。

■カンちゃんの性格を理解した里親希望者さん

そんなカンちゃんとスタッフの長期戦でしたが、1年ほど経過した頃からスタッフに信頼を寄せてくれるようになり、気づけばスタッフの近くでぐっすり眠るようにもなりました。その様子を見たスタッフはこれまでのカンちゃんとの生活が無駄ではなかったことを感じ、とにかく嬉しく思いました。

そして、こんなカンちゃんとの日々の様子を、はぴねすの公式ブログで公開していたところ、「カンちゃんを我が家に迎え入れたい」という里親希望者さんからの連絡がありました。

カンちゃん特有の性格や気性をきちんと理解した上で、「そんなカンちゃんが良いんです」と言ってくれる優しい里親希望者さんでした。長い時間、カンちゃんのお世話をし続け、一緒に過ごしたスタッフは、この里親希望者さんと何度かのやり取りを経て譲渡することを決め、カンちゃんは幸せな第2の犬生を迎えることができました。

保護当初は全てを諦めたような目で人間を見ていたカンちゃん。スタッフの献身的なケアによって、やがてカンちゃんは人間に信頼を寄せ、さらには幸せな生活をつかむことができました。はぴねすのスタッフは、カンちゃんの好例を胸に、今後も1頭でも多くの行き場を失ったワンコを救い、幸せへと繋ぐ活動の決意を、改めて強く抱きました。

わんにゃんレスキュー・はぴねす
http://happines-rescue.com/

(まいどなニュース特約・松田 義人)