まだ小学校の給食もビン牛乳だった時代、赤や白のビニール紐をほどいて覆いを取り、紙蓋を上手いこと取ったらもう一度包んで紐でクルクルっと巻いて捨てるのは、かなり指先を使う作業でした。時代は流れ、今ではビン入りの牛乳自体珍しくなり、開けにくかった紙蓋もプラスチックの蓋に様変わりしています。
そんな中、あの昔ながらの紙の蓋で、しかもビニール紐もついたビン牛乳を作り続けているメーカーが岐阜県にあります。
■日本で初めて「紙栓のつまみ」を開発
関牛乳(岐阜県関市)がそのメーカー。1950(昭和25)年創業で、地元関市周辺の酪農家から集めた生乳だけを、本来のコクや甘みを引き出すこだわりの低温殺菌(65℃、30分間)、成分無調整で届け続けています。
3代目社長の吉田宰志さんに聞きました。
-令和の時代に、まだこのスタイルのビン牛乳に出会えるとは思いませんでした。
「ええ。この紙の蓋=紙栓にポリエチレンのフード、紐というスタイルは、私どもがビン牛乳を商品化した当時から同じで、50年以上変わっていません」
-プラスチックの蓋も増えていますが、変えようとは?
「いえ。やっぱり、このスタイルの方が手作り感がありますから。元々、ビン牛乳は宅配用として広まったのですが、今では宅配は少なくなり、温泉や銭湯でお風呂上がりに飲むものというイメージの方も多いのでは。プラスチックの蓋、業界では『ポリ栓』と呼んでいますが、宅配を主流にする大手メーカー等はこちらに変わっていきました。でも、私どもは温泉や銭湯の方に力を入れていたので、そのまま残したんです。銭湯やビン牛乳自体もレトロなイメージがありますし、お客様にも喜んで頂けるかな、と」
-確かに思い出がよみがえります。紙蓋を上手く取るのも、紐を切れないよう巻くのも難しくて(笑)
「そうですよね(笑)そのための針型栓抜きを用意している銭湯などもありますが、実は先代で今の会長が、日本で初めて紙栓に『つまみ』をつけたんです。それが全国の中小メーカーにも広がっていきました。私どもが紙栓のスタイルを守り続けているのは、その歴史を大切にしたいという思いもあるんです」
と話してくれました。かつてはポリエステルのフードも牛乳の紫やコーヒー牛乳の茶色だけでなく、赤、黄、緑、ちょっと高級商品に付けていた銀色などもあったそうですが、ビン牛乳自体の需要が減ってきたこともあり、今は3種類だけになっているのだそう。
■ラーメンに牛乳??「牛乳離れ」でも「本当の美味しさ伝えたい」
脈々と続く伝統を守る一方で、驚くような新商品にも挑戦しています。話題の「関広見ラーメン味噌味」がもその一つ。同社の牛乳パックとほぼ同じデザインの商品名の下に金字で書かれているのは「関牛乳好き専用ラーメン」の文字。えっ?インスタントラーメンに牛乳??
「実は、関市には牛乳ラーメンが流行っているお店があって、私どもの牛乳を使ってくれているんです。そのメニューを広めたいというのと、東海環状自動車道の関広見I.C応援グッズとして関市に来られた方にお土産にして頂けるような商品を、という思いから作りました」と吉田社長。
本当なら麺に牛乳を練り込んだり、スープに入れたりしたものにしたかったそうですが、そこまでとなるとロット数が大きくなってしまうため断念。代わりに関牛乳の牛乳を混ぜると絶妙の味になるよう、スープの味やこだわりのちぢれ麺など研究を重ねたそうです。
「日本料理の『飛鳥鍋』のように、実は味噌味と牛乳はすごく相性が良くて、コクが出る上にカルシウムやタンパク質など栄養価も格段に上がります。僕も家では作るんですが、牛乳と生卵を混ぜてカルボナーラ風にすることもできるんですよ。これが美味しくて!」とも。地元や観光客を中心に話題になったほか、先日はテレビ番組でも紹介され完売が相次ぎ、急ぎ増産しているところだとか。ちなみに地元では紙パックと同じデザインのステーショナリーグッズも人気だそうで、もはや、食品の枠も越えています。
伝統と、思いもしない真新しさと。吉田社長は商品に込めた思いをこう語ってくれました。
「やっぱり、根底にあるのは『牛乳離れ』なんです。給食では飲んでいても、それが終わると飲まなくなったという若い人も少なくないですから…。これだけいろんな飲料がある時代ですし仕方ない面もありますが、私どもがこだわり続けている低温殺菌の牛乳は牛乳嫌いの方でも『これなら飲める』と言って頂けています。そんな牛乳本来の美味しさを一人でも多くの人に伝えたいし、将来も飲み続けてほしい。スイーツでも、ラーメンでも、もっと他のものもあるかもしれない。あらゆる可能性や楽しさを探し、提案していきたいんです」
(まいどなニュース・広畑 千春)
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