今年、バイデン政権が誕生したが、米中対立は他の欧米諸国が参加する形でいっそう激しくなった。そして、中台関係もこれまでになく緊張が走り、台湾有事における邦人退避がこれほど現実味を帯びて議論された年はなかった。
実際、有事となれば日本人だけでなく、台湾に住む外国人や台湾人の多くも日本を目指して退避してくる。しかし、与那国島など先島諸島の面積や人口というマンパワー上の問題を考慮すれば、短期間のうちに数十万、数百万とも予想される退避民を受け入れることは事実上不可能であり、平時の今の時から策を練る必要があろう。だが、台湾有事における問題はそれだけではない。退避の前提となる自衛隊の活動に、大きな法的障害があるのだ。
台湾有事になった際、自衛隊が台湾の地を踏んで台湾軍や米軍、台湾警察などと協力しながら邦人退避活動ができるのかという問題がある。有事になれば、台湾軍や米軍は中国軍に対応することになり、両軍とも邦人退避に割ける時間は限られ、自衛隊の役割が必要なのはマンパワー的にも十分に想像が付く。日台関係は極めて良好で、台湾のシンクタンク「台湾民意基金会」が11月頭に公表した世論調査によると、回答者の58%が台湾有事に自衛隊が派遣され台湾防衛に協力するだろうと回答している。
自衛隊法は84条で在外邦人の保護措置について規定しており、自衛隊は当該外国の同意を前提として海外で邦人保護活動が法的には可能だ。しかし、ここで大きな問題がある。邦人保護活動において、政府は朝鮮有事と台湾有事についてこれまでも検討を進めてきたが、朝鮮有事においては韓国の同意があれば自衛隊は韓国領内に足を踏むことが法的に可能だが(歴史的問題があり韓国が同意するとは考えにくいが)、日本は北京政府を国家承認しており、台湾を国としては認めておらず、友好な日台関係ではあるがそこには外交関係は存在しない。要は、台湾有事においては自衛隊法84条が適用できるのかという法的な壁が生じるのである。これは運用面において大きな問題だろう。
そして、これにおいて最も懸念されるのは中国がどう出てくるかだ。日本など国際社会の一般の感覚だと、台湾は国家というイメージが強いが、中国は絶対に譲ることのできない核心的利益(不可分の領域)と位置づけている。我々は中国が2005年3月、条文の中で「平和的統一の可能性が完全に失われた場合、非平和的措置および他の必要な措置をとる」と明記する反国家分裂法を採択していることを忘れるべきではないだろう。
要は、自衛隊が台湾において邦人救出活動をすることになれば、台湾有事を一種の内戦と位置付ける中国が外国からの侵略と捉え、自衛隊を攻撃してくる恐れがある。それだけではない。自衛隊が台湾領内に入ることで、その後は日本が事実上の紛争当事国となり、与那国島を中心とする八重山諸島、また米軍基地がある沖縄本島(米軍が中国軍と交戦すればすぐに嘉手納や普天間が狙われる可能性があるが)へ戦闘領域が拡大する可能性もある。
台湾における自衛隊の邦人救出活動には、上述のようなリスクが付きまとう。そして、こういったシナリオが現実のものとなれば、台湾からの邦人救出ではなく、政府や自衛隊は先島諸島(八重山列島と宮古列島)10万人の島民を沖縄本島や九州へ移動させることを優先せざるを得なくなる。我々はこのリスクについても把握しておく必要があろう。
◆治安太郎(ちあん・たろう) 国際情勢専門家。各国の政治や経済、社会事情に詳しい。各国の防衛、治安当局者と強いパイプを持ち、日々情報交換や情報共有を行い、対外発信として執筆活動を行う。
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