地域活性化への想いを受けて、ユニークな妖怪が新たに6体誕生した。その名は「奥美濃カレー妖怪」。岐阜県郡上市のご当地カレーが、レシピごとに具現化した妖怪たちだ。
町おこしのために約15年前に生まれた「奥美濃カレー」は、「郡上地みそ」を隠し味に使ったご当地カレー。郡上市白鳥地域の認定店舗でのみ提供されていて、定食屋、ステーキ店など、店ごとにオリジナルのカレーメニューがある。
TVチャンピオンで優勝経験のある東京・渋谷のカレー店「パク森」が監修に入っており、過去(2013年)にはB-1グランプリで11位を獲得したことも。今回の妖怪プロジェクトをけん引する奥美濃カレー協同組合の後藤正和さんは、「麺類や肉料理が強いとされるB-1において、カレーでの11位は大健闘なんです」と話す。
B-1グランプリの他にも、交流のあった明治大学のゼミや、学校存続の危機感を持っていた郡上北高校の生徒たちと共に、祭りやその他グルメイベントにも積極的に参加。学生たちの町おこしへの関わりが教育にもつながるようにと約15年をかけてプロジェクトを進めてきた。
「学生たちにはただの手伝いではなく、イベントの企画や準備、金銭管理までを皆で話し合いながら、課題をクリアしていってもらいました。町おこしの意義や手ごたえを体感してもらってこそ、彼らの学びにつながると考えたからです」
組合員と学生たちが二人三脚で挑んできたこれらの活動は、徐々に実を結び始める。奥美濃カレーの認知向上はもちろん、明治大の学生たちは地域住民との交流が広がり、郡上北高はそれらの活動が「課題探求型学習」として教育機関からも注目が集まるようになった。
組合としても、郡上市の新たなお土産としてレトルトカレーを開発。キッズキャンプや修学旅行での利用も広がり、プロジェクトは確かに軌道に乗り始めていた。
そんな矢先に襲ってきたのがコロナ禍だ。イベント出店をはじめ、学生たちとの活動もほぼゼロになってしまう。順調に伸びていたレトルトカレーの販売数は激減し、在庫と期限切れの返品商品が組合事務局に積みあがっていく。もちろん、奥美濃カレーを提供する店舗への客足も遠のいた。
先の見えない日々で、後藤さんがもっとも危惧したのは組合員たちのモチベーションだった。希望の光が見えないままでは、いずれ皆の気持ちが途切れてしまう。何かワクワクできるような仕掛けを投入しないと…、そう思い悩んでいたある日、知人からかかってきた1本の電話が、後藤さんの心に灯りをともす。
「面白い人が岐阜に来るから会いませんか?」
もののけアーティストとして活躍する谷村紀明さんとの出会いだった。「世界ベスト200イラストレーター」に選出され、最近では「てんぷら妖怪ガチャ」でも注目を集めた谷村さんが、後藤さんと組合員たちの切実な想いを受け止めた。
奥美濃カレーを提供する6店舗すべてのオリジナルカレーを食べ、その味わいと店舗の想いを妖怪に落とし込み具現化。日本三大霊山の白山を背に、奥美濃の山々に生息する妖怪たちが各店舗を守るために現れたというストーリーを打ち立てた。
「まずは子どもたちの人気者になってほしい。そして、妖怪がいる町としてムーブメントを起こせたら」と、後藤さんは力を込める。
郡上市では、日本三大民謡踊りとして知られる「郡上踊り」が開催されているが、「ARを使って、妖怪たちと一緒に踊っているようなシーンを実現できたらきっと楽しい。町を訪れたらあちこちに妖怪がいる…そんな、地域に密着したキャラクターに育てていきたいです」
郡上地域を代表する地場産業のひとつ「食品サンプル」づくりのノウハウを生かしたフィギアやガチャ商品製作、カレー妖怪たちが活躍する絵本の作成…夢が広がり始めた。命を吹き込まれた妖怪たちが、コロナで疲弊した町と人に活力を与えている。
奥美濃カレーの認定店舗が増えるたび、今後も1体ずつ増えていくという「奥美濃カレー妖怪」。恐怖や戒めといった思いから生まれた妖怪がいるのなら、「町を元気にしたい」という思いから生まれた妖怪がいたっていい。
ご当地カレーと妖怪による町おこしの物語は始まったばかり。奥美濃カレーと同じく、なんとも味わいのある彼らの躍動に期待したい。
(まいどなニュース特約・鶴野 浩己)
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