「えっ、これウクライナの民話だったの!?」ーーロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続く中、ロングセラー絵本「てぶくろ」が注目を集めています。
「てぶくろ」はウクライナ民話をもとにした絵本。日本では1965年11月、出版社の福音館書店が発売しました。落とし物の片方の手袋に動物たちが「わたしもいれて」「ぼくもいれて」と次々にやってきて手袋の中で暮らす物語。最後には大きなクマがやってきて、さらには落とし主まで戻ってきて…いうストーリーです。
絵本コーディネーターとして活動する東條知美さんが2月24日、自身の公式 Twitterにウクライナの民話絵本として紹介すると、「ウクライナの民話だったんだ」「ウクライナとは知らなかった」「幼稚園のとき先生が読んでくれた」「幼稚園の劇でやった」「なつかしい」「一番好きな絵本だった」「平和を…」「早く平和が戻ってほしい」など多数の声が寄せられました。
■侵攻にショック受け、ウクライナ民話を投稿
投稿者の東條さんに電話で話を聞きました。
──Twitterに絵本「てぶくろ」の話題を投稿しようと思った理由は。
「子どもの頃から知っているお話が実はウクライナのものだったという事実をみなさんにお知らせしたかったからです。普段からTwitterでは毎日のように絵本の紹介を行なっております。ウクライナにロシアが侵攻したことに非常にショックを受けました。まさか今の時代に戦争が起こるとは、昨日まで私たちと同じような日常を送っていた人たちが戦禍から逃れるように難民になるなんて、現実のことととして受け止められない思いがありました。そんな時に、そういえばウクライナの民話があったなと思い出し、本棚から取り出しました」
──投稿でウクライナ民話と初めて知った人も多かったようです。
「ここまでの反響があったのは初めてで驚きました。戦争が起きているときにこの投稿をすることが気にもなりましたが、ただ、このツイートをきっかけに大勢の方々がご自分の記憶を手繰り寄せていたり、ウクライナに思いをはせていたり、そういったつぶやきを見ることが出来、この絵本が皆さんの心の深いところに根を下ろしていることを実感しました」
──あらためて「てぶくろ」の魅力を。
「長く愛されている理由はいくつかあります。おじいさんが森に落とした片方の手袋の中に動物たちが次々とやってきて住み着くんですよね。はじめはネズミが、次はカエルがと、どんどんどんどん増えていく。住み着くということが繰り返されるんです。繰り返すリズムと増えていく展開が子どもたちにはとっても面白いんですよね。小さな生き物から大きなオオカミやクマまで、まさか手袋の中になんか入るわけないという生き物がみんな住み着いていくというところに新鮮な驚きがあります。荒唐無稽なドキドキワクワクがあるところが魅力的です」
「ラチョフによる絵も魅力の一つです。ラチョフは登場人物に民族衣装を着せています。かつてその意味をインタビューで『民族性を表現したかった、人間性を民族衣装で表現したかった』と話していました。ただ裸のままの動物よりも、より身近に感じられる工夫をしたようです」
■本当に大切なものに思いをはせるきっかけに
──さまざまな感想があります。
「いろんな動物が手袋に入ることで共生について考えさせられた、みんなで一緒にあったまろうよという思いやりを感じた、結末に歴史的背景を感じたという人もいました。絵本は言葉少なな中で、読み手がどう解釈するか、自由な余白が残されています。今回、戦争というものを人々が捉えようとするときに、絵本の余白が皆さんの自由な反応を引き出したんじゃないかと思っております」
──最後に、投稿を通じて呼びかけたかったことを教えてください。
「200年、300年と語り継がれていたお話が絵本になったものは世界中にたくさんあります。絵本の中ではファンタジーという形式が世界中の子ども達や大人達に愛されています。『指輪物語』の作者でもあるイギリスのトールキンは、現実に縛られていた精神がファンタジーの自由な力によって目覚めることを『回復』と名付けています。回復というのは曇りのない視野を取り戻すことです。ファンタジーによって物事がはっきり見えるようになるんだと自身の講演会でも語っています。世界中の人たちがみんな、明日はもっといい日になるようにと願っているはずなんです。複雑に絡み合った大人の事情や理屈ではなくて、本当に大切なもの、命や平和について思いをはせるきっかけ、それが絵本になったらいいなと思っています」
▽「てぶくろ」エウゲーニー・M・ラチョフ絵、うちだりさこ訳、福音館書店、税込1100円
(まいどなニュース・金井 かおる)
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