2年前のある夏の日。仕事に向かおうとしていた竹辺陽子さんの目の前に、1匹の犬が現れました。首輪はしているけれど、リードはなし。夕方とはいえまだ暑く、口を開けて歩く姿は「まるでニコニコ笑っているようだった」と振り返ります。
「家の近くの道が渋滞していて、どうしたんだろうと思っていたら、この子がトボトボ歩いていたんです」
竹辺さんが「この子」と呼ぶのは、その犬がハナちゃんと名付けられ、家族の一員になったから。愛犬家でピレニーズ、トイプードル、マルチーズを3頭同時に飼っていたこともある竹辺さんは、車に轢かれる危険のある犬を放っておけず、自宅にいたご主人に電話。事情を説明して保護してもらいました。警察の迎えを待つ間、ご主人と息子さんが相手をしていると、オスワリもオテもでき、賢く人馴れてしていることが分かったと言います。
「2週間は警察で預かるけどその後は保護施設に行くと聞いて、もし2週間たっても飼い主さんが現れなければうちで預かりますと伝えました。暑い時期だし、そんなに遠くから来たわけじゃないだろうから、すぐに見つかると思ったんですけど…」(竹辺さん)
2週間経過しても名乗り出る人はなく、竹辺さんの家で預かることに。実はご家族で「早く2週間たたないかな」と話していたそうです。「飼い主さんが現れなければ、そのままうちで引き取るつもりでした」(竹辺さん)。道路で保護された時点で、ハナちゃんの運命は決まっていたのかもしれません。
■手術しないと命が危ない
警察からの帰り道、動物病院で健康診断を受けた際は、「どこも異常なし。歯の状態がいいからまだ若いのでは」とまで言われましたが、次第に元気がなくなり、9月に入ると食欲も落ちて…子宮蓄膿症でした。
「先生には『すぐ手術しないと危ない』と言われましたが、まだ完全にうちの子じゃないので勝手に手術していいものか分からず、病院から警察に問い合わせしてもらいました」(竹辺さん)
警察に届けられた犬は拾得物扱い。警察が遺失者を見つけるための公告を行ってから3か月を経過しても遺失者が見つからない場合に、拾得者が所有権を取得できると定められています。警察から「目の前の命が危ないなら手術してあげてください」と言ってもらい、ハナちゃんは一命をとりとめることができました。
手術して分かったことは、子宮の状態から推定10歳くらいと考えられることと、かなり長い間、放浪していたのではないかということでした。カエルやヘビを食べることで感染するマンソン裂頭条虫という虫が寄生していたからです。保護時の写真を見ると比較的きれいですし、ガリガリに痩せていたわけでもないそうですが、余程お腹がすいていたのでしょう。
「うちに来てからも、散歩中に鳥を見ると襲おうとするので、もしかして鳥も食べていたのかもしれません」(竹辺さん)
■少しずつ自己主張するように
正式に「竹辺ハナ」になってからも病院とは縁が切れませんでした。膀胱炎になったり、平衡感覚に異常が見られる突発性前庭疾患と診断されたり。一時は立ち上がることが困難になり、オシッコも我慢できませんでしたが、薬の投与で今ではふらつくこともなくなり、頭の傾きなど後遺症もありません。トイプードルのココアくんを噛んでしまったことがあり居住スペースは仕切っていますが、それ以外に困ったことは特にないと言います。
「ハナは耳が聞こえていないようなんですけど、そのことと関係があるのか、吠えることもないんです。要求があるとキュンキュン鳴いて、こちらが分かってやれないとどんどん大きくなりますけど(苦笑)。あとは、最初は大丈夫だった耳掃除を嫌がるようになりました。少しずつ自己主張するようになったかな」(竹辺さん)
ハナちゃんを迎えたとき家にはココアくんとマルチーズのミルクくんがいましたが、3頭目に抵抗がなかったのは、もともとピレニーズの小雪ちゃん含め3頭飼っていた経験があったからでしょう。
「そうかもしれませんね。最近お留守番が多くて、ハナには『ごめんね。別のおうちだったら、もっといろんなところに連れて行ってもらえたかもしれないのに』って謝っているんですけどね」(竹辺さん)
いえいえ。ハナちゃんはきっと竹辺家を選んでやって来たのです。
(まいどなニュース特約・岡部 充代)
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